平成22年6月号(Vol.62)
百日咳を考える
最近のニュースは、「普天間問題」が中心になっています。終戦後、日本にはアメリカの基地が全国に置かれ、その基地の多くが沖縄県にあります。私も何度か沖縄に行ったことがあるのですが、沖縄の人々の生活と基地が密接に関わっていると感じさせられました。戦闘機の爆音は、一時会話が中断させられる程凄まじいものでした。政府は抑止力という点から基地の必要性を論じています。戦後60年以上経ち、社会情勢も大きく変わってきています。普天間問題から日本の安全保障をどうするかを私たち一人一人が考えることも大事だと思います。
さて先月、非ステロイド抗炎症薬の一つである「一般名 ブフェキサマク(商品名 アンダーム等)」の販売中止が決まりました。炎症をおさえる軟膏でみなさんも使用したことがあるお薬だと思われます。中止の理由は接触性皮膚炎で、この薬自体が皮膚を悪化させることがあり、ヨーロッパで中止が決定し、日本も同じ対応になったそうです。家で眠っている軟膏にこの軟膏がありましたら捨ててください。商品名がいくつかありますので全て載せませんが、かかりつけや薬局で確認してください。
今月は3年前から夏にかけて流行している「百日咳」について述べたいと思います。
百日咳ってどんな病気?
百日咳は百日咳菌が原因で接触感染や飛沫感染によって気道感染を起こします。潜伏期間は約7~10日間です。百日間もの長い間咳がひどくなることから、病名がつけられたと言われています。症状は長期間持続する咳です。最初はかぜの症状と同様に、くしゃみ・鼻水が出る程度ですが、徐々に咳き込みがひどくなり、顔を真っ赤にしながら咳をするようになります。また、特有のけいれん性の咳発作を特徴とします。乳児では無呼吸を起こしたり、顔が真っ青になるチアノーゼがでて、まれに亡くなるケースもあります。よくなるまでに2~3ヶ月もかかります。熱は経過中あまりないか、微熱程度です。
百日咳は流行している?
3年前から百日咳の患者数が増加をしており、昨年は5月から夏にかけて増加しており流行しています。今年も注意が必要です。大人は症状も軽いため、診断が難しく、診断されている患者数は非常に少数で、実際はもっと多いと思われます。
大人の百日咳が問題!
百日咳は子どもだけの病気ではなく、大人もかかります。大人が百日咳にかかっても咳が長引く程度でかぜと区別がつきにくく、ワクチン未接種の乳児にかかってしまうことが問題になっています。大人で2週間以上続く長引く咳がある場合は、注意が必要です。
診断が難しい
診断は百日咳菌を気管分泌物から採取したり、血液検査で調べたりしますが、インフルエンザのような迅速診断ができず、診断が確定するまでに時間がかかります。血液検査では2週間以上あけて2回行い評価するため、実際の診療では頻繁に行われていません。
治療と予防
百日咳菌に対する治療薬は、エリスロマイシン・クラリスロマイシンなどのマクロライド系抗菌薬を使用し、鎮咳薬や気管支拡張剤などで対応しますが、咳を鎮めることは容易ではありません。
百日咳は接触感染や飛沫感染でうつるので、インフルエンザやかぜと同じように手洗い・うがいが予防の基本です。生後3ヶ月から行われるジフテリア、破傷風、百日咳を混合した三種混合ワクチンを接種してください。このワクチンをしていない乳児は百日咳にかかるとたいへん重くなります。生後3ヶ月からポリオやBCGも始まりますが、先に三種混合ワクチンを接種し予防しましょう。
最近の動き
百日咳ワクチンの効果が5~10年程度と言われ、大人の百日咳の流行を考えると、思春期でのワクチン接種が必要ではないかと議論されるようになってきました。このような背景からアメリカでは2005年から思春期に百日咳ワクチンの追加接種が始まっています。日本でも導入されることを切望します。
参考文献
病原微生物検出情報(月報)Infectious Agents Surveillance Report (IASR)~特集:百日咳。第29巻、第3号.国立感染症研究所、厚生労働省健康局結核感染症課,2008.