平成30年7月号(Vol.158)
胃腸炎の対応法~小児急性胃腸炎ガイドランより~
夏到来、海や山に遊びに行く機会が増えます。けが、水の事故、熱中症に気をつけて楽しい夏の思い出を作ってください。先月の父の日、うちの娘は保育園で作ってきたフォトフレームを私にくれました。園児らで何を作るかを考え、何色が好きかと私に事前に聞き、一生懸命に作成してくれました。私の一生の宝物になりました。
先月11日、沖縄県の麻疹流行が終息しました。全国的な大流行にならず、安心しました。再び麻疹流行を阻止するには平時での取り組みが大切です。1歳児には麻疹風疹(MR)ワクチン1期、年長さんの方はMRワクチン2期を接種しましょう。今月は昨年発表された「小児急性胃腸炎診療ガイドライン」を基に、急性胃腸炎の対応法についてお話したいと思います。
胃腸炎って?
原因はウイルスと細菌に分けられ、多くがノロウイルス・ロタウイルス・アデノウイルスなどのウイルスによるものです。頻度は少ないですが、大腸菌・サルモネラ菌・カンピロバクターなどの細菌によるものがあります。病名は胃腸炎が一般的ですが、感染性腸炎・腸感冒・おなかのかぜ・嘔吐下痢症はどれも同じと考えてください。症状は嘔吐・下痢・腹痛・熱・頭痛などがあります。嘔吐のみ、下痢のみ、腹痛のみで治まる場合もあります。例年秋からノロウイルス、年明けにロタウイルスが流行します。ロタウイルスは一般的にノロウイルスより症状が重く、乳児の場合は入院することもありますが、ロタウイルスワクチンが導入されるようになってから、重症化するお子さんがワクチン導入前に比べて大きく減っています。感染経路は主に接触感染で便や嘔吐物を触り、手などから口に入り感染します。潜伏期間は1~3日程度です。
診療ガイドラインって?
最近、熱性けいれん・ぜんそく・食物アレルギーなど数々の診療ガイドラインが作成され、治療の均一化が進んでいます。そのガイドラインは推奨される治療法とその根拠が書いてあります。
「小児急性胃腸炎診療ガイドライン」は専門家(日本小児救急医学会 診療ガイドライン作成委員会)により、科学的根拠に基づく医療の考え方に沿って推奨される診療内容を17項目(CQ1~CQ17)にまとめて、初めて作成されました。重症化するO-157などの特殊な細菌性胃腸炎ではなくウイルス性胃腸炎に対してのみ書かれています。
小児急性胃腸炎診療ガイドラインより
「経口補水療法」については、軽症~中等症の脱水のお子さんは治療として経口補水療法が推奨されていること(CQ6)、経口補水療法は「OS-1」(大塚製薬)を代表とする経口補水液がお勧めで、初期治療として嘔吐や下痢で失われた水分と同じ量を4時間以内に飲ませること(CQ7)、与え方はティースプーン1杯程度を5分ごとに飲ませるとよいこと(CQ8)、経口補水液を嫌がる場合、塩分を含んだ重湯、お粥、野菜スープ、チキンスープで代替してもかまわないこと(CQ9)、
「食事療法」については、経口補水液を飲みながらでも母乳は中断せず、併用しながら対応してよいこと(CQ10)、脱水が改善したらミルクや食事はすぐに開始してもよいこと、食事の内容はお粥などではなく、年齢に応じた通常の食事でかまわないこと、食事制限をしても直るまでの期間に変わりはなく、むしろ体重の回復を遅らせる可能性があること(CQ11)、ミルクの希釈はしないこと(CQ12)、乳糖除去乳の有効性は確認されているが、コストと効果のバランスを考慮すると最初からすべてのお子さんに使用する必要はないこと(CQ14)、
「薬物療法」については、止痢薬・止瀉(ししゃ)薬の使用は推奨されないこと、止痢薬は有効とのエビデンスが乏しいこと、止瀉薬(ロペラミド)は乳児でイレウスの発症が報告され、2歳未満は原則禁忌となっていること、制吐薬は有効とする報告があるが、錐体外路系や心電図異常の有害事象が報告されていること、多くはウイルス性であるため一律に抗菌薬の使用は推奨されないこと、漢方薬は有効とするだけのエビデンスがなく、現時点で推奨度を決めることができないこと(CQ15)、
「予防と教育」については、ロタウイルスワクチンにより重症ロタウイルス胃腸炎に対する予防効果が90%以上認められること(CQ16)、感染拡大防止には手洗いの徹底と次亜塩素酸消毒剤による消毒が重要であること(CQ17)と述べられています。
一方で実際はガイドライン通りに診療すればよいのではなく、同じ病気でも子ども一人一人症状が違うため、ガイドラインを基にした個別の対応が求められています。
参考文献
小児急性胃腸炎診療ガイドライン