平成28年6月号(Vol.133)
子どもに手を出さない子育て
熊本地震から早1か月が過ぎました。車中泊・テント暮らしの方々がまだいて心配しています。被害を受けられた方に心からお見舞い申し上げます。先月、日本小児科学会に出席し、熊本の被災された小児科医から熊本地震での小児医療について現状報告がありました。熊本地震で病院も被害を受けNICUが使用できず別の病院に搬送したことや、自宅で過ごしていた重症心身障害児のお子さんが地震発生1~2日後には病院で緊急入院の受け入れができ、家族も安心することができたという内容でした。
今月は「親と子の心のパイプは、うまく流れていますか?」(明橋大二著 1万年堂出版)の本の中から学んだことについて取り上げたいと思います。体罰を受けることで様々な支障が長期間にわたり危惧されるというデーターに基づいた話もあり、興味深く読みました。私の経験も含めて体罰の是非についてお話します。
私の経験から
自分が子どもの時、親からは手を上げられることはありませんでした。ただ、中学時代は悪いことをすると、教師から握りこぶしでガツンと頭を殴られた思い出があります。自分が親になって子どもに手を上げることはありませんが、私自身は完璧な親ではなく、きたない言葉で子どもに罵声を浴びせてしまったことがあります。今でも反省している苦い経験です。最近、子どもと動物園に行った時に、ある母親が子どもに向かって、言うことを聞かないので頭をコツンと叩いていました。周囲の目があるのでコツン程度でしたが、家の中だともっと強くなるのかもと想像しました。
体罰が常態化すると
大阪市立桜宮高バスケットボール部の主将(当時17歳)が顧問に体罰を受け2012年に自殺した事件を覚えている人もいると思います。体罰が続くと自殺してしまうことがあります。今年4月、奈良県で父親がしつけのつもりで2歳男児を衣装ケースに閉じ込め死亡したという事件がありました。しつけがエスカレートすると虐待死を生みます。故意ではないにせよ、結果として子どもが亡くなることは決して許されることではありません。部活であれば、強くなるためにしかたがないと思われがちですが、体罰なしでも全国レベルで立派な成績をあげるチームはいくらでもありますし、体罰しないとだめだと思う指導者は未熟な指導者と言わざるをえません。指導者の成長を期待したいです。
しつけで悩んだ時
言葉だけではしつけがうまくいかない時は親だけで悩まず、保健師・小児科医などに相談をすることが大切です。下の子が生まれ赤ちゃん返りが始まった・しつけが偏っている・お子さんの特性(発達障害など)でしつけが難しいなど困っていることも様々です。相談をして解決できなくても話すだけで自分の心に余裕が生まれ、よい方向に向かうこともあります。根気よく言葉での説明に努め、どうにもならない場合は、家庭内で解決しようとせず、外に助けを求めてください。手を上げることは絶対にしないでください。たたいて解決したように見えたことは本当の解決にはなりません。お子さんは大きくなったら同じことをします。
体罰は短期的に有効だが
体罰とはたたく・殴る・つねる・蹴ることなどの行為のことを言い、体罰により子どもは傷つき、心を閉ざしてしまいます。体罰をしなくても「うそつき!」、「お前はだめな人間だ!」、「何度言ったらわかるんだ!」などの強い言葉も同じです。体罰は、憲法や子どもの権利条約にも反し、学校教育法の11条でもはっきりと否定されています。2002年、アメリカで体罰についての研究がなされ、約3万6千人を対象に約60年前にまでさかのぼって体罰の影響を調べました。結果は、体罰をした時は親の命令に従うが、長期的には攻撃性が強くなる、反社会的行動に走る、精神疾患を発症するなどのマイナス面がみられることが判明しました。日本でも同じような研究結果がでています。子どもに気になることがある場合、体罰や強い言葉は一時の効果があっても長期的にマイナスであることを認識しつつ、大人としての自分の立場で物事を考えるのではなく、自分がまだまだ未熟な子どもだったころを想像して対応していただきたいです。1979年世界に先駆けて法律で体罰全面禁止を制定したスウェーデンでは、体罰・虐待とも減少、若者の犯罪、さらに自殺も減少しました。体罰禁止をした他の国でも同様に暴力が明らかに減少していることが報告されています。
ご存知の方も多いと思いますが、今回の内容で参考にした「親と子の心のパイプは、うまく流れていますか?」の著者である明橋大二先生は子育てのしかたに関して多くの本を出しており私自身もたいへん影響を受けています。ぜひ、ご一読してください。きっと、みなさんの子育ての手助けとなり元気をもらえると思います。