平成22年10月号(Vol.66)
虐待と里親について考えよう!
この夏は異常な暑さでしたね。我が家はエアコンがないので、扇風機をフル回転しながら、なんとか夏を乗り切りました。最近の報道で各国の国内総生産(GDP)に占める公的な教育支出の割合が発表されました。割合が多い上位国は北欧の国々で、日本は主な国28カ国中最下位でした。日本は教育にお金をかけない、言い換えれば、「子ども」にお金をかけない国であることがわかります。子ども手当や高校授業料無償化はやっと子どもに対してお金をかけようと国が考えてくれるようになったのだと思います。色々と課題は山積していますが、子どものためによい国づくりを政府に期待したいです。
そして、10月からたばこが1箱あたり約100円の値上げになります。この機会にぜひ禁煙を考えてみませんか?パパが禁煙する場合、ママのサポートが大切です。失敗しても責めず、支えてください。禁煙補助薬として、ガムやパッチや飲み薬もあります。専門の医療機関に相談することもよい方法だと思います。
今月は私が虐待に関してお話をします。2年程乳児院の嘱託医として、虐待された子どもたちの健康管理をしてきました。諸事情により先月で嘱託医を辞めてしまいましたが、その経験も踏まえながらお話をしたいと思います。
虐待とは
虐待は、殴る・蹴るなどで傷を負わせる「身体的虐待」、性的行為を強要する「性的虐待」、家に閉じ込める、病院に連れて行かないといった「ネグレクト」、言葉による暴力・自尊心を踏みにじる「心理的虐待」の4つタイプがあります。
虐待相談件数は平成21年度44,210件で、6年前と比べて40倍に急増しています。内容は身体的虐待とネグレクトが全体の8割を占めています。虐待をしているのは実母6割、実父2割で、実母が圧倒的に多いことがわかります。虐待を受けて育った子どもは、親になった時、我が子に虐待を加えてしまいやすい(「虐待の連鎖」)と言われています。この夏、大阪市西区のマンションで幼い姉弟2人の遺体が見つかった虐待死事件が報道されましたが、こういった報道が後を絶ちません。多くの場合、一つだけの要因だけでなく、親自身が虐待された経験・経済問題・夫婦不和・育児不安・地域社会の疎遠化などのいくつかの要因が重なっています。また、相談件数の増加から児童相談所の役割も大きくなっています。さらなる児童相談所の機能強化つまり人員増加が必要となっています。虐待は人ごとではなく、身近な問題であることをわかっていただきたいと思います。
里親が足りない!
児童相談所によって保護された子どもは、現在日本で約4万人います。そのうち9割が「施設」で育ち、実の親に代わる「里親」は1割に過ぎません。施設は乳児院と児童養護施設に大きく分かれます。私が嘱託医をしていた乳児院では20数名の子どもたちが一緒に生活をしています。0~1歳で入所した子どもたちは4~5歳になると児童養護施設に移り、それに伴い担当職員も代わります。現状の制度では多くの子どもたちがこのような集団で育てられています。一般の家庭とは大きく違った環境で育っています。そういった子どもは大集団での施設で生活していますが、安らぎながら生活することができるでしょうか?愛着形成の点からも好ましい育て方ではなく、家庭的に育てたほうがよいことはみなさんおわかりでしょう。外国では9割が里親、1割が施設となっています。日本は里親の割合が少ないことで国連から非難されています。
福岡市では「すべての子どもに愛ある家庭を」をスローガンに里親を普及させる目的で「子どもの村福岡」の会を立ち上げ、福岡市の里親委託率を1割から2割に増加することができました。県内でも多くの子どもたちは施設で生活をしております。里親に関して皆さんに理解していただき、里親に関心を持ち、温かい目で見守っていただきたいと思います。そして、子どもたちのためにも他国並みに里親という制度が普及するようになることを願っています。