令和元年6月号(Vol.169)
子どもによくある眼科医の立場から~堀内二彦先生の講話から~
皆さんは先月の長い10連休、どのように過ごされましたか?私はクリニックで3日間、救急センターで2日間診療をしました。残りの5日間は娘と県内の牧場や公園に行き、楽しく過ごしました。いつもよりも長い休みだったので、さらに家で大掃除までして家はきれいになり過ごしやすくなりました。
私のクリニックに隣接しているげんき夢こども園にある子育て支援センター「ながれ星」では、子育て中の保護者が子どもの身体の話を専門科に聞くという目的で様々な科の医師に講演会を依頼し、私もよい学びを得てきました。今年度も既に私が担当する小児科医の講演会は先月開催されました。皆さんも興味がありましたら、ぜひ今後の講演会にご参加下さい。
さて、これまで皮膚科医、整形外科医、耳鼻科医の講演会の話を紹介してきましたが、今月は南アルプス市で開業している眼科医堀内二彦先生の話についてお伝えします。
私は10数年前に堀内先生が中巨摩郡医師会長をされていた頃から、いろいろと相談に乗っていただいています。私自身が尊敬する医師でもあります。
目のしくみ
目は光が角膜を通って水晶体(光を屈折させるレンズ)、硝子体を伝わり、目の奥にある網膜に焦点を合わせることで物が見える仕組みになっています。水晶体の周りに小さな筋肉がついていて、水晶体の厚みを変えることで焦点を調節します。赤ちゃんは水晶体の厚みを調節する力がしっかりありますが、40歳過ぎるとその調節する力が衰えてくる老視(老眼)になってピントが合わず、近くの物がみえづらくなってきます。そのピントが網膜の前にずれると近視、後ろにずれると遠視と言います。赤ちゃんは目の発育が未熟なため、眼軸長(角膜から網膜までの長さ)が短く、ピントが後ろになり遠視になりますが、成長とともに眼軸長も成長し網膜に焦点が合ってきます。はっきりと見るために眼鏡やコンタクトレンズを使用し調整しています。
弱視を早く発見することが大切!
物を見る時、角膜、水晶体、硝子体を通って、網膜にピントが合った後に、その情報が視神経を通って脳に伝わっています。つまり物は目でみているのではなく、目で光を受けて脳で見ています。
弱視は、この視覚情報が伝わる経路のどこかに支障があるときに生じます。低身長の治療は身長が伸びる時期である思春期までに対応するのが望ましく、大人になってから治療しても身長が伸びないのと同じように、視力の発達は3~5歳までと身長の伸びよりももっと低年齢で終わってしまいます。それ以降に弱視を治療すると反応が悪いため、早めに発見し治療することが大切になってきます。片方の目のまぶたがさがったまま(眼瞼下垂)・黒目の中心が濁る(角膜混濁、白内障)・片方の目の位置がずれる(斜視)場合、網膜にピントが合わず、弱視の原因になります。弱視のお子さんは物をぼやけた状態で目に情報が入り脳で見てしまっています。3歳児健診では目のチェックを行いますが、この時期に弱視などを発見できることが大切になります。いつもテレビを近づいて見る・ものを見る時に顔を傾けて見ることを繰り返す場合は眼科へ受診をしてください。
治療は眼鏡かけて網膜に焦点を合わせて鮮明な像が結ばれる状態にしたり、視力のよい方の目に遮閉具(アイパッチ)を付け、視力の悪い方の目でしっかり見て視力の発達を促します。気になる場合は、眼科へ相談をしてください。
講演の中で目の病気だけではなく、『エコーチェンバー(共鳴室)現象』についても説明してくれました。SNSで価値観の似た物同士でのみ交流、共感し合うだけの情報だけであると方向性を誤る恐れがあることを例示しながら、語ってくださいました。一歩下がって物事を捉える大切さ・「目は見を守り豊かな思考を育てる道具」であり、つまり目は敵を発見し身を守るという多くの動物に備わっているものだけではなく、人間だけは字と字の間である行間を読むことができる豊かな思考が備わっているので読書をすると人生が豊かになること。そして霊長類であるヒトと軟体動物のタコは全く異なった進化の道を歩んできて体型的には全く異なった姿だが、目に関しては類似性がある「目の収斂進化」が起こっていたことについて。また、ご自身の長い経験から幸せな家族とは子どもの幸せを考えることと合わせて、自分の親の面倒もみて親孝行することが本当の幸せな家族と言えるのではないかということなど幅広い話をしていただきました。さらに、6年前に先生が執筆された「The eyes」(創英社/三省堂書店)を10冊寄贈していただきました。本当にありがとうございました。
参考文献
日本眼科学会ホームページhttps://www.joa.or.jp/index.html