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院長コラム

令和元年11月号(Vol.174)
マルトリートメントにより子どもの脳が傷つく

2019/11/01(更新日)

 

 先月は台風19号で県内でも大きな被害が出ました。うちのクリニックは台風接近した日は臨時休診とし、前日には予約した方に連絡をするなど対応に追われました。全国各地での川の氾濫等の被害をニュースで知ると、他人ごとではない気持ちになりました。再びやってくる台風に備えて自分の住んでいるハザードマップ(被害予測地図)を再確認し、停電などになった場合の備えを考える機会となりました。

 9月末、全国病児保育協議会山梨県支部主催の研修会が富士吉田市で開催されました。当院の病児保育室も含め県内の協議会加入病児・病後児施設5か所(甲府市・昭和町・甲州市・富士吉田市・北杜市)の関係者約60名超が集まり勉強しました。県内でも未だ全国病児保育協議会に加入していない施設があるため、ぜひ加入して共に研鑽していってほしいと願っています。

今研修会の講演会では山口県の金原小児科院長・病児保育室ここいえの施設長である金原洋治医師による「そうだったのか!発達や行動が気になる子の理解と関わり方」について最近の脳科学研究と実践を絡めた貴重な話を聞くことができました。その講義の中で保育者・看護師の参加者が関心の高かった「マルトリートメント」について「子どもの脳を傷つける親たち」という本を参考にしながらお伝えいたします。

 

マルトリートメントとは

 マルトリートメント(maltreatment)はmal(悪い)とtreatment(扱い)が組み合わさった単語で、「不適切な養育」と訳されます。「虐待」とほぼ同義と考えてよく、子どものこころと身体の健全な成長・発達を阻む養育をすべて含んだ呼称で、子どもに対する大人の不適切なかかわり全般を意味する、より広範な概念です。

マルトリートメントは昨今、虐待として報道されるような極端なケースだけではなく、たたく・しつけと称して怒鳴りつける・脅かす・暴言をあびせる・本人に直接的ではなくても子どもの前で繰り広げられる激しい夫婦げんかも含まれます。自戒を込めて言いますが、夫婦げんかは子どもの前ではしないように努めるべきですね。マルトリートメントはどの家庭でも起こりうることでトライ&エラーを繰り返しながら親も育ち、過ちを繰り返さないように親は成長していく必要があります。

 子育て24年の私も最初の頃は未熟で、手を出すことはしませんでしたが、子どものためと思い、強い口調で子どもに言ったことは何度もあります。最近は少し大人になったせいか、落ち着いて話ができるようになりました。

 

子どもの脳が傷つく

 親や養育者といった身近な存在から適切なケアと愛情を受けることが脳の健全な発達には必要不可欠ですが、極度のストレスを受けると子どものデリケートな脳はその苦しみになんとか適応しようとして、自ら変形してしまうのです。

これまでの研究からMRIで脳を撮影した結果、①小児期に厳格な体罰を経験したグループでは脳の前頭前野(学びや記憶に関わる)の容積が平均19.1%縮小、②暴言を浴びせられた場合、聴覚野が肥大、③両親の家庭内暴力の目撃により視覚野の萎縮がありました。その結果、学習意欲の低下や非行、うつや統合失調症などに結び付く危険性があると言われています。このように外からの刺激により脳が傷つくことがわかるようになりました。

ただ、一旦傷ついた脳も適切な治療やケアを行えば、ゆっくりと回復することもわかっていますので、悲観し過ぎることはありません。別の研究ではマウスの母親の毛づくろいやなめる行動で大事に育てられた仔マウスは正常な発達を遂げますが、そのようなケアを受けずに育った仔マウスは成長後、ストレスや不安が高まることがわかりました。人も同様だと思いますが、子どもたちは親や養育者から「愛されている、大切にされている」という安心・安全を確保できれば、それを足掛かりに外の世界を探索していきます。完璧な親はいませんので、明日からの子育てに活かし、お子さんをしっかりと抱っこして、話しかけて愛してください。それで大丈夫です。

 

ロタウイルスワクチン、定期接種化決定!

 先月、厚生労働省は来年10月からロタウイルスワクチンを定期接種化することを決定しました。来年8月生まれ以降のお子さんが対象となりますので、しばらくは自費扱いとなります。ロタウイスによる胃腸炎は重くなることが多く、ワクチンによりかかってもかかっても症状が軽くなりますので、今まで通り接種をしていただきたいと思います。おたふくかぜワクチンはまだ公費になっていません。1日でも早く定期接種化していただきたいです。

 

参考文献

子どもの脳を傷つける親たち NHK出版 友田明美

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