令和4年8月号(Vol.207)
援助希求(助けを求める)力を高める~子どもの自殺予防~
例年と比較して早く明けた梅雨でしたが、その後戻り梅雨のような陽気になり、ようやく夏らしくなってきました。コロナの感染増は気になりますが、夏祭り、花火大会が予定されています。感染対策を気にしながら、お子さんと一緒にいろんな体験・経験をしていただけたら幸いです。
8月15日は終戦記念日であり、77年前のこの日に第2次世界大戦が終結しました。この大戦で日本人の軍人の死者数は230万人、民間人の犠牲者数が80万にのぼりました。今の日本の平和は多くの犠牲者の上で築かれています。今年2月からはロシアがウクライナに進行しており、戦後も世界各国で戦争が絶えません。この機会にご両親から子どもたちに戦争の悲惨さ・平和の尊さを伝えていただけたら幸いです。
先月、ラジオNIKKEIの「小児科診療 Up-to-DATE」という番組から「子どもの自殺を考える」(10/27放送予定)の依頼があり、東京にあるスタジオに行き収録をしてきました。ラジオ番組の収録は初めてで緊張しながら話をしてきました。今回はこの収録を通じて、学んだこと・知ってほしいことをテーマに掲げます。
過去約40年間の厚生労働省「人口動態調査」から18歳以下の自殺者の日別自殺者数をみると、夏休み明けの9月1日に最も自殺者数が増えています。長期休み明けはお子さんの生活環境が変わる時期で大きなストレスがあります。今月は子どもの自殺予防の中で大切な要素と言われている「援助希求力を高める」ことの大切さについてお話します。
子どもの自殺の現状
全国の自殺者数は2010年から減少傾向にあり、令和3年の自殺者数は21,007人でした。その中でも大人の自殺は社会問題となり減少傾向に向かっています。しかし、少子化にも関わらず10代の自殺者数は減少しておらず、令和3年の小中高生の自殺者数は473人でコロナ前に比べて約100人多く、ここ2年間の増加はコロナ禍であることが影響しています。いじめに関連した自殺があると報道され一時期な関心の高まりは見られますが、「子どもの自殺が増えている」ことに関しては社会的な関心が低いのが実態です。
子どもの自殺の原因は「いじめ」だと多くの人が思いがちですが、2020年コロナ禍の児童・生徒の自殺の原因をみると、原因が明らかにされた理由の第1位が「進路の悩み」、第2位が「学業不振」、第3位が「親子関係の不和」となっています。しかし、6割が原因不明であり原因を探ることも困難なのが実情です。
大人が子どもたちに伝えるべきこと
子どもたちには、ひどく落ち込んだ時には親・教師・友達の誰でもいいので伝えやすい人に相談をするように伝えてください。思春期になると相談相手は大人よりも友人が多くなります。「死にたい」と打ち明けられたら、その友達の気持ちを大事にしながら話を聴いて、信頼できる大人につなぐことがとても大切であることを強調してください。
「死にたい」と訴えられたら
信頼関係のある先生に子どもから「死にたい」と訴えてくるかもしれません。訴えられた人は強い不安に襲われると思いますが、Tell(伝える)・Ask(尋ねる)・Listen(聴く)・Keep safe(安全を確保する)という「TALKの原則」で対応してください。「大丈夫、頑張れば元気になる」といった励ましや「死ぬなんて馬鹿なことを考えるな」等と叱ると、開き始めた心が閉ざされてしまします。徹底的に聞き役に回ってください。こういった場合、学校と保護者だけでの対応には限界がありますので、精神科・心療内科・小児科といった医療機関へつなげていくことも大切です。
子ども自身が大切な命を自分の力で閉じてしまう自殺は「孤立の病」とも言われ、長い時間かかって徐々に危険な心理状態に陥っていくのが一般的です。「誰も自分のことを助けてくれるはずがない」というひどい孤立感・「私なんかいない方がいい」という無価値観・強い怒り・苦しみが永遠に続くという思い込み・心理的視野狭窄が挙げられています。自殺が現実に起きる前に子どもは必ず「助けて!」という必至の叫びを発します。
現在のコロナ禍においては、子どもへのストレスが増強しており、さらなる生きづらさが子どもの自殺者数の増加の一因になっています。これ以上、子どもの自殺者数を増やさないためにもコロナ感染対策への緩和を求めます。子どもも大人も生きやすい社会がすべての人への自殺予防になります。
参考文献
文部科学省:子供に伝えたい自殺予防 2014
文部科学省:教師が知っておきたい子どもの自殺予防