令和2年12月号(Vol.187)
「産後うつ」を予防するためには
季節は立冬も過ぎ、日に日に寒くなってきますね。先月、娘と妻と3人で近くの公園で紅葉を楽しんできました。特に黄金色のいちょう、真っ赤な紅葉は圧巻でとても癒されました。一方で最近のコロナの新規患者数増加が気になっています。例年通りの手洗い・うがいとコロナ過での3密を避けることを心がけて乗り切りましょう!コロナの終息がまだまだ望めず、長期戦を覚悟しなければならないことも現実です。親は子育てだけに目を向けがちになりますが、無理をして頑張り過ぎると、子どもにも伝わり、逆効果になることもあります。自分自身の息抜きも考えてください。
2か月前、筑波大学の松島みどり准教授と助産師の調査で産後うつの割合(10%前後)が新型コロナウイルスの影響で、以前の倍以上(20%余り)という結果が出ました。コロナ過で人と触れ合う機会や外出する機会が極端に少なくなったことや経済的な不安などが影響していると考えられています。今月はコロナ過の影響で増えつつある「産後うつ」についてお話します。
「産後うつ」って?
妊娠・出産は女性ホルモンの急激な変動もあり、からだの変化と同じように、心にも様々な影響が出てきます。特に出産後は育児中心の生活に変化しストレスもたまりやすく、心にもからだにも疲れが出てきて、情緒不安定になったり、子育てに自信を失ったりします。
産後うつは出産後1~2週間から数か月頃に発症し、出産後の母親の約10%にみられます。「悲しい・憂うつ・楽しくない、家事・育児をする気力が出ない、将来の子育てに自信が持てない、理由もないのに涙が出る、食欲がない、赤ちゃんの世話が面倒に思える、いらいらする、赤ちゃんがかわいいと思えない、自分は母親失格だと自らを責める、眠れない、体力が戻らない、死にたい・消えてしまいたい」の症状があり、これらの症状が2週間以上続く場合は産後うつの可能性があります。
ちなみに「マタニティブルー」は涙もろくなることや抑うつや頭痛などの症状が出ますが、出産後2日~2週間ぐらいに起こり、10日ほどで自然に治まることが産後うつと違う点です。
「産後うつかも?」と思ったら
産後うつの可能性があると感じているママはご自身が危険な状態にあることがわかっていないことも多く、パパや祖父母、周囲の方々の気づきが大変大切になってきます。また、診断も難しく、育児不安や育児の疲れと見逃されることも多いと言われています。
妊娠中は産科のスタッフや市町村の保健師などに悩みや不安や相談をしたり、家族に自分の気持ちを話したり、過去にうつ病や双極性障害(躁うつ)などの精神疾患にかかったことがある方は産科医と相談し精神科と連携してください。
出産後は家事も育児も完璧を目指さず、ほどほどを心がけ、パパや友達・産科スタッフ・保健師などに相談しましょう。話をすることで気持ちが楽になることがあります。
産後のママは精神的にも肉体的にも疲れていますので、パパはママが休養できる環境を作ってもらいたいです。ママがやり過ぎている場合はパパが積極的に家事・育児をしてもらうとママは大変ありがたく感じます。
産後うつの予防はママだけの努力だけでは難しく、パパの理解と協力、さらに祖父母などの周囲の助けがとても大切です。
厚生労働省の調査によると、2015年からの2年間で産後1年までに自殺をした妊産婦が少なくとも102人いて、がんや心疾患などを上回り自殺が最も多く、出産時の出血などによる死亡よりも多いことがわかりました。産後の自殺の原因では産後うつなどの精神疾患であることがわかっています。ママを守ることで将来を担う子どもたちが心身ともに健やかに育つことにつながります。
最近、経験したケースでは子どもの受診時、ママから「朝起きることができず、何もやる気がでない。」という話を聞きました。さらに聞くと、この症状が1か月以上続いていることや家事を完璧に行う几帳面なタイプで、第2子が生まれたことと、コロナ過であったことが影響していて、産後うつが疑われました。そのため心療内科に紹介しました。カウンセリングや内服薬での治療・子育て支援施設(子育て支援センター)の利用もあり、以前より症状が和らいできています。
パパや周囲の努力をしても、ママの症状がなくならない場合は精神科や心療内科への受診をお勧めします。専門家からのアドバイスや薬物療法で症状が和らぐことが期待できます。産後うつは心の病気ですので医療機関での関りが大切です。最後に、産後のママは自分で頑張り過ぎますので、手を抜きながらパパと一緒に子育てを楽しんでくださいね。
参考文献
妊産婦メンタルヘルスケアマニュアル 公益社団法人 日本産婦人科医会
産後うつ病 早期発見・対応マニュアル 長野県精神保健福祉協議会