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院長コラム

真夏がやってきました。熱中症に気をつけて夏を乗り切りましょう。

6月末、うちの娘の通う小学校で絵本の読み聞かせボランティア活動をしてきました。当日、娘から事前にくしゃみをしないこと・読み間違えをしないように言われ、プレッシャーを感じながら『このよでいちばんはやいのは』の絵本を選択し、何度か練習をして本番に挑みました。娘の教室に入ると全員が静かに待っていて、私の読み聞かせを真剣に聞いてくれました。照れくさそうに聞いているわが娘を垣間見ながら、とてもよい思い出となりました。

 ところで、日々診察をしていると、父親が子どもを連れて受診に来ることがあります。その時には、「今日はお仕事休みですか?」と聞くようにしています。これまでは「今日は仕事休みです」、「仕事を抜け出しています。」と言う父親がほとんどでしたが、今春以降、同じ質問をすると、「育休で1か月取得中です」と言う父親が何人かいました。さらに大学病院で働いている医師である父も1か月育休していると聞き、時代の変化に驚きを隠せませんでした。働き方改革が実際に施行されていることを実感します。育休を取得した父が多くなることで、育休を取ることが当たり前になり、父親がもっと子育てに協力的になり、よりよい家庭が築かれることが期待されます。

 7月の連休に全国病児保育協議会の研究大会が金沢市で開催され、医院・園スタッフ9名と共に学んできました。病児保育に関する勉強だけでなく、予防接種についての講義も聞きました。その中でHPVワクチンのキャッチアップ接種が来年の3月で公費負担が終了することが話題となっていましたので、今月はHPVワクチンについてお話します。

 

キャッチアップ接種を53%が知らない

 厚生労働省が2024年1~2月、HPVワクチン接種対象者等を対象に実施した意識調査では、HPVワクチンのキャッチアップ接種の対象者のうち53%がこの制度を「知らない」という結果がでました。対象者の約半分の方に情報提供されていない実態がわかりました。その対象者は1997年度~2006年度(平成9年度~平成19年度)生まれの女性です。対象者がいたら、ご本人に伝えていただけたらありがたいです。あなたがかかるかもしれない病気を予防するワクチンで、公費負担でお金もかかりません。

 

キャッチアップ接種、まもなく終了!

 厚生労働省は1997年度~2006年度生まれの女性でHPVワクチン接種の機会を逃した方を対象に、公費負担でHPVワクチン接種する機会を設けており、この制度は来年3月末までとなっています。来年3月末までに3回接種を終える必要があり、接種は合計3回、完了するまでに約6か月間かかります。初回接種を9月末までに済ませてください。ちなみに予防効果の高い9価ワクチンは自費で計約10万円かかります。

 

子宮頸がんについて

子宮頸がんの95%以上はヒトパピローマウイルス(HPV)というウイルスの感染が原因です。感染経路は性的接触と考えられています。そして、そのうち一部の女性が子宮頸がんに発症し、数年から数十年かけて子宮頸がんに進行します。HPVワクチンはこのウイルスに対する免疫を高めることで、感染させないことで発症を防ぎます。

 

HPVワクチン接種を迷っているあなたへ

 まず、9価のHPVワクチンは子宮頸がんを80~90%予防できます。HPVワクチンの副反応は日本小児科学会の「知っておきたい わくちん情報」によると、2価、4価HPVワクチンで医療機関から「重篤である」として届けられた副反応疑い例(有害事象)は10万接種あたり、それぞれ7.9、5.4と非常にまれなことがわかります。子宮頸がんは国内で毎年約1.1万人かかり、約2900人が亡くなっています。若い年齢層で発症する割合が比較的高いがんです。子宮頚がんの治療で子宮を失ってしまう(妊娠できなくなってしまう)人も、1年間に1000人います。

 以上のことからも、重篤な副反応は非常にまれであり、ワクチンをしないことにより子宮がんに多くの方がかかっている現状を知っていただければ、接種勧奨の意味が理解できると思います。母親や家族から副反応が大丈夫かと強く言われ、接種を悩んでいる方も多いと思いますが、自分の体のことですので、ご自身で考えて決めていただくことが大切だと思います。

 

参考文献

「HPVワクチンに関する調査」厚生労働省

https://www.mhlw.go.jp/content/10906000/001125941.pdf

HPVワクチン接種を逃した方に接種の機会をご提供します 厚生労働省

https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/000918718.pdf

予防接種の副反応と有害事象 日本小児科学会

https://www.jpeds.or.jp/uploads/files/VIS_A-04hukuhannou_20240401.pdf

 

 今月は梅雨が明けると夏本番です。熱中症に気をつけながら、夏を楽しみましょう。先月、恥ずかしながら夫婦げんかがありました。いつもなら互いに不機嫌になり、時間が解決してくれていたのですが、初めて、その解決に成人した子どもたちが関わってくれました。子どもが両者の言い分を聞き、仲立ちをしてくれました。子どもが成人になるとそれで終わりではなく、親を助けて(諭して)くれることがあるのだと子どもの存在の有難みに感謝しました。読者の多くの方は小さな子どもたちの子育てをして毎日疲れ切っていることでしょう。しかし、子どもが成人になったときに、思わぬところでご褒美をもらうことができます。

皆さんもこれからきっと経験できると思います。

 先月、国民生活センターから「アームリング付き浮き具」を着けて子どもが溺水した事故があったことが報告されました。2023年8月、3歳男子が「アームリング付き浮き具」を着けて、屋外のレジャープールで遊んでいて、保護者がわずかに目を離した間に溺れ、浮いているところを発見されたそうです。一時は心停止と診断され、5日間入院しました。着用方法が逆になっていると溺水しやすいことを注意喚起しています。また、アームリング付き浮き具はライフジャケットとは異なり、命を守るためのものではないことを理解すること、さらに水遊びの際は必ず保護者も子どもと一緒に水に入り、万が一の場合に備え、すぐに手を差し伸べられるように寄り添うことも大事です。毎年海・川などでの溺水事故が多く発生しています。大人も子どもも水辺での遊びではライフジャケットを着用してください。

 昨年5月から新型コロナウイルスの感染症法上の位置づけが5類になり、マスク着用は個人の判断が基本となりました。5類施行後、1年が経ちましたが、世間ではコロナ禍前よりもマスクを着けている方が多い印象です。大人はご自身の判断でよいと思いますが、子どもたちだけで判断させることは到底できません。今月は子どものマスク着用について考えてみたいと思います。

 

子どもたちの声を聞こう!

 国立成育医療研究センターが2023年ゴールデンウイーク中、小6から高2までの学生749名からマスクの着用について質問をしました。その結果、「室内の近い距離で人と接する可能性があるとき」は約9割の子どもが「マスクをつけている」と回答、「マスクをつけたい」と思った理由は「病気の感染対策」「安心するから」「みんながマスクをしているから」などでした。マスクを外したい理由は「不快」「会話しにくい」「集中できない」などでした。

コロナ過ではマスクをつけなさいと子どもたちに強いてきました。2023年5月から個人の判断ということになりましたが、急に子どもたちに判断をさせるのはなかなか難しく、戸惑っている子どもも多いのではないでしょうか。大人だって同じだと思います。調査結果の「みんながマスクをしているから」という思いは、本当ははずしたいという気持ちが入っていることを大人は知っておく必要があります。

 

素顔ジャパンプロジェクトについて

 私が会員でもある「ファザーリング・ジャパン」(父親の子育て支援などに取り組むNPO法人)の会員間によるメーリングリストで木舟周作さんという会員からのメールに目が留まりました。ある中学校で半数以上が炎天下でマスクをしながら徒競走などをしている現状を目の当りにし、体育や運動会でマスク着用をしないように、みんなの笑顔が見える社会・素顔の日本を取り戻すために2024年4月に「素顔ジャパンプロジェクト」を立ち上げました。

 このプロジェクトでは、『小学高学年から中高高校生の多くがマスクをはずせずにいる』『特に夏の炎天下、マスク着用で運動をさせることは虐待であると言っても過言ではない』『顔を見せるのが恥ずかしくマスクが手放せなくなってしまっているお子さんへ寄り添った対応をしてほしい』『不登校や自殺が増えているが、マスクの影響があるのではないかという懸念』などを訴えています。

最後に、5類以降、私はみんなにマスクを外してもらいため、診察以外は率先して外して来ました。2023年5月頃はマスクをつけないでいる方が少数のため、何か言われたらどうしょうとドキドキしていましたが、今は外している人が半数以上になってきているので安心しています。うちの娘(小6)のクラスは女子がほとんどマスクを着用しているようです。女子は様々な理由で外せないようです。お子さん自身が感染に心配して着用する場合は無理に外すように強いる必要はありませんが、大人はマスクを外したいと思っている子どもたちが外せるように考えてもらいたいです。成長期である子どもたちは、顔の表情を読んで学んでいることを忘れないでください。

 

参考文献

国民生活センター アームリング付き浮き具による子どもの溺水が発生!

https://www.kokusen.go.jp/news/data/n-20240522_1.html

東京くらしWEB 子供の水辺の遊びではライフジャケットを着用させましょう https://www.shouhiseikatu.metro.tokyo.lg.jp/anzen/test/lifejacket.html

素顔ジャパンプロジェクト https://sugao-japan.com/

 先日娘とキュウリ・ナス・ミニトマト・ピーマンの苗を買って、庭に植えました。毎日娘が水やりを気にしていて、大きく育ち一緒に収穫するのを今から楽しみにしています。

 ゴールデンウイークが過ぎたころから、新しい生活に適応ができず、頭痛、腹痛などの症状を訴え、クリニックに相談に来る人が増えてきました。様子を聞くと、学校でのクラス替えによる友達関係の問題・新しい担任に慣れないことなどが挙がります。こうした場合は保護者が先生に相談をし、解決策を考える必要があります。ひどくならないうちに、早めの対応をお勧めしています。難しいケースは子どもの総合医である私たち小児科医も一緒に考えていきます。

 そして少子化の勢いが止まりません。2023年の出生数が前年より約4万人減少し、約75万でした。いろいろな子育て支援策を実施しておりますが、なかなか歯止めがかからないのが現状です。1人の女性が一生のうちに産む子どもの数の指標となる「合計特殊出生率」は1.26(2022年)であり、前年より0.04%低下しています。韓国は合計特殊出生率0.78(2022年)と日本よりもさらに低いことに非常に驚きました。子どもを育てやすい環境を若い人の意見を聞きながら、一つ一つ改善していく必要があります。

 今月は子育て支援策の一つとして注目されている「産後ケア事業」について皆さんにお伝えいたします。

 

産後ケア事業とは

 みなさんは「産後ケアセンター」って聞いたことがありますか?聞いたことはあるが、利用した人はそう多くないかと思います。産後ケア事業は、退院直後の母子に対して心身のケアや育児のサポート等を行い、産後も安心して子育てができる支援することとされています。

 最近は核家族化し、自分の親などが近くにいない状態で妊娠・出産することがまれではなくなっています。また、近くにいても高齢や病気により親に頼れない場合もあります。妊娠・出産・子育てを家庭のみに任せるのではなく、生活している地域で様々な関係機関が支援し、母親の孤立を防ぐことが重要とされています。こうした背景の中「産後ケア事業」の役割があります。

 種類は宿泊をしながらケアを受ける「宿泊型」、日中のみの「日帰り型」、自宅に助産師らが出向く「アウトリーチ型」があります。母体の心身のケア・育児に関する相談・沐浴や授乳などの育児指導を受けることができます。母親に対応するのは助産師・保健師・看護師などとなります。

 

利用にあたって

 実際、利用を検討する場合は利用料金・助成の回数などが市町村でバラツキがあります。対象者は産後に心身の不調または育児不安などがあり、支援が必要な方となっています。興味のある方はお住いの市町村にお尋ねください。ちなみに甲府市は利用料金が宿泊型3,600円(1泊2食)、日帰り型500円、助成回数が宿泊型3泊4日、日帰り5日まで、産後4か月までとなっています。他県の情報として鳥取県では令和2年度から利用料金を無償化(全国初)したそうです。

 

県内の実施場所

県内で産後事業を実施している施設は2016年から「健康科学大学産前産後センターママの里」(笛吹市)が、宿泊型・日帰り型をしています。来月から私のクリニックと連携しながら「げんき夢こども園」で産後ケア事業を開設する予定です。定員は2組、対象年齢は産後1年まで、日帰り型で助産師・看護師が対応します。昼食時は母親の孤独を防ぐために子育て支援センター利用の先輩母との交流も検討しています。小児科併設・子育て支援センター・一時保育・病児保育などの機能を活かしながら、微力ではありますが関わらせていただきます。

 

最後に、産後ケア事業は充足されれば、育児環境は万全かと言われると、決してそうではありません。産後ケアは母親のケアをしてもらえますが、子育てで母親と同じくらい大切な人である「父親」の存在・役割を忘れてはいけません。育休取得率が増えてはいますが、子育ての役割はまだまだ母親に重くのしかかっています。父親は仕事だけをする存在ではなく子育て・母親への支えをしていく役割が求められています。みんなで母親も父親もサポートしていきましょう。

 

参考文献

産前・産後サポート事業ガイドライン(厚生労働省)

https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11900000-Koyoukintoujidoukateikyoku/sanzensangogaidorain.pdf

産後ケア事業について(こども家庭庁)

https://www.cfa.go.jp/assets/contents/node/basic_page/field_ref_resources/ce28e632-7504-4f83-86e7-7e0706090e3f/1d73c9a2/20231122_councils_shingikai_seiiku_iryou_tWs1V94m_04.pdf

 ハナミズキが咲き誇り、新緑が眩しい季節となりました。

我が家では昨年に続きファミリーマラソンに出場しました。私も足首の故障から復活し、1周約1.2㎞超の17周を家族7人で交代しながら走り切りました。子ども4人が成人になると家族全員で一緒に会う機会が少なくなるので、こういったイベントを大事にして家族の絆を深めていきたいと思っています。

 小林製薬の紅麹の成分を含むサプリメントを摂取した人が腎臓の病気などを発症した問題で健康被害の訴えが相次いでいます。うちのクリニックでも、20歳代の男性2人が健康診断時の血液検査で肝・腎機能異常を指摘され相談を受けたことがありました。今回の紅麹とは違いますが、別のサプリメントを飲んでいたため、そのサプリメントを飲まないことで肝・腎機能改善した経験があります。また、診察時にご両親からお子さんにサプリメントを飲んでいいかと質問されることがありますが、基本的には普段の食事だけで充分であることを伝えています。

 今月は発達障害の一つとされている「場面緘黙(ばめんかんもく)」についてまず皆さんに知っていただければありがたいと思います。

 

場面緘黙とは

 場面緘黙とは、家庭ではごく普通に話すのに、幼稚園・保育園や学校などで話をしたりすることができない状態を言います。家では問題なく話すため、長い間、気づかず、先生やお友達から聞いて驚かれる保護者が多くいます。また、園・学校ではおとなしいタイプが多く、見過ごされがちになる場合もあります。不安や緊張が強く話すことができません。

 場面緘黙は、医学・法令・学校教育で分類が異なり、学校教育においては「情緒障害」、医学的には「不安症群」、法令上は「発達障害者支援法」の対象となっています。学校では「特別支援教育」の対象であり、合理的配慮を求めることができます。

 発症頻度は近年わが国で行われた大規模な調査では0.21%(約500人に1人)という報告(梶・藤田,2019)があります。発症は通常5歳未満で、社会的な交流や発表などの機会が増える入園入学後に症状がはっきりしてきます。親の過保護やしつけなど「育て方のせい」と考えるのは誤解で、最近の研究結果からも関連性は否定されています。

 

私が経験したケース

 2歳で保育園に入園したお子さんが、園で話をすることができず、毎日のように帰宅後、ご両親に園に行きたくないと泣くばかりでした。困り果てたご両親は転園を決意、その園ではその子の特性に合わせたかかわりを園全体で理解し対応することで、不安が少しずつ和らぎ、先生・友達に少しずつ話をすることもできるようになりました。年長になった生活発表会では1人で発表することまでできる成長が見られました。その子にあった丁寧な関わりが実を結ぶ経験をしました。

 

園・学校での配慮

 場面緘黙のお子さんは自分の意志で「話さない」わけではありません。「話せない」のです。自分から悩みを発信することができません。適切な支援なく園・学校生活を過ごした場合、長期にわたるストレス状況から、うつ的症状や不登校などの2次的な問題へとつながるケースも見られます。自閉症スペクトラム症などの発達障害やその傾向をあわせもつ場合もあります。話せないこと以外の困り感や特性を知って支援してもらえるとありがたいです。さらに話せないことだけでなく、集団の場で不安や緊張が強く、体が動かなくなる場合もあります。

 園・学校の対応法としては、家庭と園・学校などが協力して、まず安心できる環境を調整することが最も大切です。1)場面緘黙のお子さんは自分で助けを求めることができないので、家庭と連携し対応を協議する。2)「話せない」状態のため、話すことを強制せず、どうしたら話せるようになるかを本人と保護者と一緒に考える。3)大きな声や乱暴な言葉づかいにとても敏感なので、直接、本人に言ったわけでなく、周囲へ強い口調をしたことでも恐怖を感じます。そのため必要以上の叱責を控える。4)症状が一人一人違うので、以前経験した対応方法でうまくいかない場合もあります。その子にあったやり方を考える4点が挙げられます。

 

 最後に、一番の理解者である保護者の方は場面緘黙であるお子さんのつらさを理解するように努め、話すようにプレッシャーを与えず、不安を取り除けるように子どもの話を聞きながら関わってください。焦らずに、園・学校、家庭、専門機関とも連携しながら、少しずつできる体験を増やし、お子さんの成長を見守っていきましょう。

 

参考文献

かんもくネット https://www.kanmoku.org/

かんもくネット『場面緘黙Q&A』角田圭子(編)、学苑社、2008年

金原洋治・高木野潤『イラストでわかる子どもの場面緘黙サポートガイド:アセスメントと早期対応のための50の指針』合同出版、2018年

 ようやく暖かくなり、草花が芽吹く春がやってきました。

入園・入学・就職と新生活になるご家庭ではお子さんの生活、そしてご自身の仕事に慣れていただくことが第一です。新年度の4月は家族1人1人が新生活で疲れがでます。無理をしない・頑張りすぎずに生活が送れるといいですね。  うちは息子が大学を無事卒業し、新社会人になります。彼が社会人としてどんな風に成長していくのかを楽しみにしている今日この頃です。

 2月末、福岡県内の小学校で1年生の児童が給食で提供されたうずらの卵をのどに詰まらせて亡くなった事故がありました。2015年にも大阪で小学1年生がうずらの卵による窒息事故で亡くなっています。小学1年生の頃は歯が生えかわる時期で前歯がない時期です。前歯がない状態では、表面がツルツルした食べ物の場合、噛もうとしてもうまく嚙み切れず、そのまま吸い込んでしまうことがあります。うずらの卵だけでなく、あめ類・ラムネ・ブドウ・ミニトマト・白玉・球形のチーズなどは給食・ご家庭でも出さないようにお願いします1)。事故発生時での対応を学ぶことも大切ですが、このような食べ物を出さないことを徹底すると予防につながります。

 さて先月、山梨県での上映予定がないため、東京の田端にあるわずか20席しかない小さな映画館で「弟は僕のヒーロー」という映画を観てきました。この映画は実話を基に作成されています。イタリアの作品で、ダウン症の弟との関わりを兄の視点から描いています。兄は思春期を迎え、障がいがある弟を隠すようになっていく心理、ピュアな心を持ち続ける愛に溢れた弟、そして家族への愛情が表現されていました。障がい児を持つ家族にとっては同じような経験があって、大変な苦労と葛藤があるのだと思いました。そういった家族の思いを社会全体で共有することができれば、もっと温かい社会になるのではないでしょうか。上映中、すすり泣く声が聞かれたのが印象に残りました。

 今回の映画では障がい児を持つ家族の中の健常児の兄が主人公でした。このような家族の場合、親はつい障がい児に目を向けてしまいがちになります。健常児の兄弟にとっては、愛情が届きにくい状況になることがしばしばあります。

円滑な生活を送るために、健常児が家族の一員として、家事や障がい児の世話などの時間に追われるということが社会問題化されています。そのような状況にある子どものことを「ヤングケアラー」と言い、社会的に認知が広がってきています。今月はヤングケアラーについてお話します。

 

ヤングケアラーって?

 ヤングケアラーとは、本来大人が担うと想定されている家事や家族の世話などを日常的に行っているこどものことを言います。障がいや病気の家族に代わり、買い物・料理・洗濯・掃除などの家事、幼い兄弟の世話をしたりしています。責任や負担の重さにより、学業や友人関係などに影響が出てしまうことがあります。2)2022年度に実施した調査結果において、山梨県内では、ヤングケアラーとして支援すべき子どもの存在が約28人に1人程度(3.6%)いることが明らかになっています。2022年12月、県でヤングケアラーやその家族に寄り添った支援を展開していくために、支援の方向性を具現化した「山梨県ヤングケアラー支援計画」が策定されました。その計画の中に、県民が正しい理解を深め、ヤングケアラーとその家族を支えられるように、ヤングケアラー本人への支援の充実と福祉サービスの充実を強化していくことが書かれています。3)

 

ヤングケアラー本人への関わり

 うちのクリニックでは、人工呼吸器や胃ろうなどを使用している医療的ケア児を対象としたデイサービスを運営している関係で、医療的ケア児の兄弟と診療などで出会うことがしばしばあります。そんな時はなるべく、積極的に声をかけるなどの配慮をしています。

 ヤングケアラー本人は特別扱いもしてほしくないと思いますが、ぜひ周囲の大人は気にしていきましょう。本人が困ったときは学校の先生・スクールカウンセラー・スクールソーシャルワーカー・親戚の人など信頼できる周りの大人に頼ることが大事です。県のヤングケアラー相談窓口として電話・SNS・対面での方法があります。子どもに関する全般的な相談窓口でも構いません。話を聞くだけでも対応してくれます。1人だけで悩まないで。あなただけが、がんばり過ぎることはありません。あなたの家族を社会が関わることで支えていきます。

 

参考文献

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