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院長コラム

子どもの自殺

小児科医から最新の医療情報と県内の子どもにまつわる情報をお伝えしております。
この内容は、県内子育て情報誌「ちびっこぷれす」の「午後10時、クリニックにて…〜おほしさまの先生からの子育て応援”談”!〜」に掲載されています。

 今月から少しずつ植物や虫たちが息を吹き返す季節ですね。うちの娘が長い小学校生活を終え、来月から中学生になります。子どもの成長は早いもので嬉しくもあり、ちょっぴり寂しさも感じます。最近、仕事関係の仲間から声をかけられ、大学時代部活動としてやっていた硬式テニスを月1回やるようになりました。30~40歳代は仕事・家庭生活が多忙でテニスと無縁でしたが、子育ても落ち着き顔を出せるようになりました。テニスを通じて仲間が増え、体を動かすので健康にもよいですね。皆様も子どもが大きくなってきたら、少しずつご自身のための時間を作り、うまく子離れをしていってください。

 薬物依存というと覚せい剤や大麻をイメージしますが、最近は薬局やドラッグストアなどで売っている市販薬を乱用する若者が急増しています。今月は昨今の社会問題になっている市販薬の過剰摂取(オーバードーズ、OD)についてお話します。

 

オーバードーズとは

 医薬品を決められた量を超えてたくさん飲んでしまうことを指して、「オーバードーズ」と言われています。特に最近、かぜ薬や咳止め薬などをかぜや咳の症状を抑えるためではなく、感覚や気持ちに変化を起こすために大量に服用することを指して、「オーバードーズ(OD)する」などと言われています。

 薬は肝臓や腎臓で分解され無毒化(代謝)されるので、たくさん飲んでしまうと、身体に大きなダメージを与えてしまい、死に至ることもあります。ODにより意識がもうろうとしたり、呼吸が苦しくなったりして救急搬送される例が各地で報告されています。ODは心と体を傷つける、危険な行為です。

2022年、国立精神・神経医療研究センターによる調査では、全国の精神科医療施設で薬物依存症の治療を受けた10代患者のうち、市販薬を主に使用していた患者は全体の65.2%を占めています。ちなみに2014年の同様の調査では、市販薬を使用していた患者の治療は0%でした。ODが若年層に急速に浸透してきていることが分かります。

 

高校生は約60人に1人OD経験あり

 国立精神・神経医療研究センターが2021年に実施した「薬物使用と生活に関する全国高校生調査」によると、「過去1年間に市販薬を乱用した経験がある」と答えた生徒が約60人に1人の割合(約1.6%)でいることがわかりました。

この調査では市販薬乱用の経験を持つ高校生は非経験者に比べて、睡眠時間が短い・朝食の摂食頻度が低い・家族全員での夕食頻度が低い・大人不在で過ごす時間が長い・親しく遊べる友人や相談ができる友人が少ない・悩み事があっても親(特に母親)に相談しない・インターネットの長時間使用(1日6時間以上)の割合が高い結果でした。市販薬乱用の予防や支援をしていくためには、こうした生活上の特徴を把握していくことが重要と考えられています。背景に社会的孤立・生きづらさがあります。

 

オーバードーズをしたくなったら

 つらい気持ちや、嫌なことがあったり、なんだかもやもやしていたり・・・そんな気持ちや生きづらさをODで変えられると思ったら・・・そんな時は危険なODより、つらい気持ちや嫌なことを誰かに話してみたり、困っていることを相談してみたりすると、そんな状況が少し変わるかもしれません。

 身近な友達や先生や家族にはちょっと話しづらい時は専門家が話を聞いてくれる相談窓口(精神保健福祉センターなど)もあります。もちろん、秘密は絶対に守られます。誰かに相談するのは、勇気がいるかもしれません。そんなに難しく考えなくても、ただ誰かとなんでもないお話をするだけで、こころが少し晴れることもあります。

 

ご家族や支える皆さんへ

 友達や家族がODしていることに気づいたら、力になってあげてください。何をしてあげたらいいかわからなかったら、専門家に相談できる窓口を紹介することも支援の一つです。相談はODをしている本人でなくてもできます。本人に対しては責めたり、無理やりやめさせようとしないでください。それよりも、本人がODをしないといけないくらい「辛い」ことを受け止め、まずは本人の話に耳を傾けてあげてください。それだけで本人の気持ちが落ち着くこともあります。「辛いんだね」「大変なんだね」などと声をかえてみてください。家族だけで抱え込むのではなく、専門医療機関や精神保健福祉センターなどに相談をしてください。

 

参考文献

厚生労働省ホームページ 一般用医薬品の乱用(オーバードーズ)について

薬物使用と生活に関する全国高校生調査(2021) 厚生労働省

https://www.ncnp.go.jp/nimh/yakubutsu/report/pdf/highschool2021_ver2.pdf

全国の精神科医療施設における薬物関連精神疾患の実態調査(2022、国立精神医療研究センター)

https://www.ncnp.go.jp/nimh/yakubutsu/report/pdf/J_NMHS_2022.pdf

 今月は命の大切さについて考えてみたいと思っています。令和3年2月16日付山梨日日新聞で「子ども自殺最多479人に」という記事を目にしました。子ども自身が大切な命を自分の力で閉じてしまう「自殺」に関して、皆で向き合っていくことが大切ではないかと思っています。

 

子どもの自殺は増えている

 下記の表のように、山梨県内で5年間(2014~2018年)、自殺した子ども(0~18歳)は12人、うち15~18歳が9人います。現状では県内で1年間の子ども自殺者が約2~3人いて、中高校生が多いという結果です。

 全国の自殺者数は2010年から減少傾向にあり、2020年の自殺者数は20,919人でした。しかし少子化にも関わらず10代は増加して、令和2年の小中高生の自殺者数は479人(前年比140人)という結果でした。前年から140人増加していることはコロナ過であることが影響しています。数が多い大人の自殺に関しては社会問題となり減少傾向に向かっています。しかし、子どもの自殺に関しては、いじめに関連した自殺があると多く報道され関心の高まりはありますが、一般的には「子どもの自殺が増えている」ことに関しての社会的な関心が低いのが実態です。

 

山梨県(2014~2018年)・全国(2020年)自殺者数

山梨県内

2014~2018年

5年間

0~18歳

(15~18歳)

12人

(9人)

全国

2020年

全年齢

(小中高生)

20,919人

(479人)

2019年比 小中高生 140人増

 

自殺に追いつめられる子どもの心理

 自殺はある日突然、何の前触れもなく起こるというよりも、長い時間かかって徐々に危険な心理状態に陥っていうのが一般的です。「誰も自分のことを助けてくれるはずがない」というひどい孤立感、「私なんかいない方がいい」という無価値観・強い怒り・苦しみが永遠に続くという思い込み・心理的視野狭窄が挙げられています。こうした子どもの心理を知り、子どもが発している救いを求める叫びに気づいてください。自殺が現実に起きる前に子どもは必ず「助けて!」という必至の叫びを発します。その子どもに近い友達・家族・教師が耳を傾ける必要があります。

 

学校でできること 

 中学・高校教師の5人に1人は生徒の自殺に、3人に1人は自殺未遂に遭遇したことがあるという調査結果があります。つまり、子どもの近くにいる教師は生徒の自殺・自殺未遂に関わることがあり、切実な問題です。子どもの自殺はいじめが原因と思われがちですが、他の世代に比べて遺書が残されていないことが多く、原因が特定されない場合も少なくありません。子どもと信頼関係が成り立っていると、子どもから「死にたい」と言われることがあります。その際にはまず自分だけで抱え込まず、周囲の教師と話をして学校全体で受け止めることが必要だと思います。そのためにも、日頃から自殺の知識を身に付けながら対応していくことも大切です。さらに、保護者や医療機関などと連携をして組織的に対応することが求められます。決して1人で抱え込まないでください。

 

「死にたい」と訴えられたら

 訴えられた人は強い不安に襲われると思いますが、Tell(伝える)・Ask(尋ねる)・Listen(聴く)・Keep safe(安全を確保する)という「TALKの原則」で対応してください。「大丈夫、頑張れば元気になる」といった励ましや「死ぬなんて馬鹿なことを考えるな」といったように叱ると、せっかく開き始めた心が閉ざされてしまします。徹底的に聞き役に回ってください。

 このような場合、学校と保護者だけでの対応には限界がありますので、医療機関へつなげていくことも大切です。本人や保護者が心療内科や精神科への受診に抵抗があるようなら小児科等かかりつけ医へ相談をするような話をしてもいいのではないかと思います。学校側から保護者に医療機関への受診を促しても「家族の問題に口を挟まないでほしい」と言われる場合もあるでしょう。

1~2回の働きかけで諦めず、学校側からの思いを保護者や本人に伝えていただけるとありがたいです。一番は本人のこれからを見守る視点に立って働きかけていただきたいと思います。

 

親ができること

 私も以前に中学生から直接「死にたい」という言葉を告げられました。あまりない経験なので、強い不安がありました。本人からの話を聞き、自分だけで対応することが難しかったため、精神科に受診を勧めた経験があります。   そのケースでは、家族がお子さんの安心基地でないこともわかりました。自殺に追いつめられるお子さんは家庭が安心基地でないこともあります。適切に養育できない環境下では子どもの自殺リスクが高まります。家庭内の養育力が脆弱な場合、子どもが安心して生活できるような家庭を築けるようなサポートが求められています。家庭の中だけで対処しようとせずに、学校や医療機関などに相談をしていただくことをお勧めします。

 

参考文献

文部科学省:教師が知っておきたい 子どもの自殺予防 2008

文部科学省:子供に伝えたい自殺予防 2014


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