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院長コラム

母乳

小児科医から最新の医療情報と県内の子どもにまつわる情報をお伝えしております。
この内容は、県内子育て情報誌「ちびっこぷれす」の「午後10時、クリニックにて…〜おほしさまの先生からの子育て応援”談”!〜」に掲載されています。

 草花は成長し、田んぼには早くもカエルの鳴き声が聞こえる季節になりました。冬は折り紙やトランプをして家で過ごすことがほとんどだったうちの娘(5歳)も外で遊ぶのを楽しんでいます。4月頃「自転車の補助輪、取って」というので心配しながら、補助なしの練習をしました。何回か転んで傷を作ったり、泣いたりしましたが、補助なしで乗れるようになりました。生まれて、歩き始め、話し、補助なしの自転車にも乗れるようになり、一段一段成長の階段を上っています。
 3月中旬以降、沖縄から始まった麻疹の流行が続き、愛知・神奈川・東京に広がり100名を超えています。かかった人は20~40歳代が多く、この世代は子どもの頃、麻疹ワクチンを1回だけで終了しているため免疫が十分ではありません。妊婦が感染すると早産や流産のリスクがあると言われていますので、大人も含めて2回接種をすることが大切です。1歳前のお子さんは、麻疹に対する免疫がまったくありませんので、1歳になったらすぐに麻疹ワクチンを接種しましょう。先月に引き続き今月も母乳についてお話します。

添い乳のすすめ

 母乳育児の場合、子どもが欲しがる度に授乳対応しなければならず、体力的にも慣れるまで大変です。特に夜中の授乳は負担が大きいです。昼間は座って授乳することは容易ですが、夜も同じようにすると体が持ちませんので、夜間は座って授乳をせず、寝ながらの添い乳がママの睡眠不足を多少和らげてくれます。うまくできない場合は昼間に添い乳をしてみて、お子さんに慣れてもらいましょう。

寝る前の授乳は虫歯になりやすい?

 虫歯は、食べ物や飲み物に含まれる砂糖(ショ糖)から虫歯菌が酸を作り、歯を溶かす病気です。母乳中に含まれるのはショ糖ではなく乳糖であり、虫歯の直接の原因にはなりません。虫歯の予防で大切なことは、少なくとも1日1回は歯みがきをして歯の汚れをしっかりと落とすことです。夕食後仕上げ磨きができていれば、寝る前の授乳後に歯みがきをする必要はありません。おっぱいを飲ませながらそのまま寝かせて大丈夫です。
 ちなみに、仕上げ磨きは嫌がる子どもが多いと思いますが、やさしく話しかけたり、楽しい歌を歌いながら笑顔で磨きましょう。また口の中を傷つけないために、保護者の膝の上に頭をしっかりのせて固定できる姿勢を保ってください。それでも嫌がる場合はあきらめず、力加減に気を付けたり、歯肉に強くあてないなど注意しながら習慣づけのために短時間で行ないましょう。

授乳中は薬を飲めるの?

 薬の説明書である添付文書には、多くの薬が授乳中は避けることと書いてあり、その通り対応すると授乳を止めなくてはなりません。しかし、アメリカやカナダの調査によると、薬を飲んだ母親の母乳を飲んだ子どもの血中濃度を測定したところ、安全なレベルの薬も多くあったことが明らかにされています。授乳中の服薬に熟知している医師(小児科医、産婦人科医など)に相談をしていただければ幸いです。授乳しながら、抗生剤・抗アレルギー薬・抗てんかん薬などが対応できる場合があります。

卒乳はいつごろ?

 授乳をやめる時期はよく質問されますが、時期は決まっていません。私はよく「ママが決めるといいですね。」と答えています。中には1歳になったら止めるべき、1歳過ぎて飲ませていると「まだやめていないの?」と言われたりするようですが、1歳でやめた方がいいことはありません。「1歳すぎると水と同じ!」なんて言う人もいますが、1歳すぎても母乳の成分は今までと同じ成分のままです。また1歳過ぎると、栄養的なことより、スキンシップの役割が強くなってきます。寝かしつけの時や不安になったり甘えたりするときに子どもが授乳を求めてくれば、自然に応じてあげて下さい。
 入園を機に母乳をやめるように言われる場合がありますが、やめる必要はありません。園に預ける前にたっぷりと飲ませて預け、帰ってきたらスキンシップも兼ねて授乳して下さい。授乳は子どもの精神的な安定に寄与します。昼間、胸が張る場合は職場にお願いし、授乳室を設けて搾乳をして乳腺炎を予防することも大切です。なお、WHO(世界保健機関)やユニセフでは、2歳かそれ以上まで母乳育児を続けることを勧めています。

参考文献

NPO法人日本ラクテーション・コンサルタント協会ホームページ

http://jalc-net.jp/

ドクターKIRIKOのおっぱい育て ニライ社 桶谷桐子

日本小児歯科学会ホームページ

 桜も散り、春本番です。初夏を思わせる陽気になったり、気持ちのいい季節に入りました。うちは先月、18年間ずっと一緒だった第3子が県外の大学に通うため家を出ていきました。家を出る最後の日に「いろいろと面倒を見てくれてありがとう!」と言い残し旅立ちました。長いようで短い子育ての終わりです。
 先月から新しい朝ドラ「半分、青い。」が始まりました。そのヒロイン・鈴愛(すずめ)をご存知ですか?小学生の頃、おたふくかぜにかかり、左耳がまったく聞こえない状況に見舞われるも、いくつかの失敗を重ねながら、持ち前の明るさとユニークな発想力で人生を切り拓いていく人物です。片側だけしか聞こえない場合、大勢での会話ができない・スポーツを楽しめない・方向感覚が欠如する・聞き間違いをするなど生活に支障がでます。おたふくかぜにかかった片側の難聴は治療法がなく完治しません。おたふくかぜワクチン2回を接種することでこのような状況になることは避けられるため、お子さんの接種履歴を確認しましょう。
 今月は「1歳過ぎたらやめなさい」「3時間おきにおっぱいをあげた方がいい?」など周囲からいろいろと言われている母乳についてのお話をしたいと思います。

母乳と粉ミルクの違いは?

 粉ミルクは母乳に近づけるように作られており、いろいろな成分が母乳に似せています。ただ、どうしても作ることができないのが「免疫」です。この免疫が母乳には入っており、赤ちゃんから病気を守っています。母乳育児は人工栄養に比べて下痢・中耳炎・気管支炎などの感染症や喘息、アトピー性皮膚炎になりにくいというデーターが出ています。さらに肥満や糖尿病にもなりづらいとも言われています。子どもだけでなく、母乳育児をした母親は、出産後の出血量が少ない・子どもとの愛着が強くなる・乳がんや卵巣がんなどにもなりづらいということも言われており、母子両方にとってメリットがあります。
 また災害時、人工乳はお湯が必要で水があっても温める必要があります。母乳は準備が必要なく、スムーズに飲ませることができます。母乳は災害に強いです。

母乳が足りている?

 母乳がどのくらい出ているのかを正確に測ることは難しく、赤ちゃんが満足しているのか気になるものです。一般的に、赤ちゃんが元気でおっぱいをゴクゴク飲んでいる音が聞こえていれば、十分な量の母乳を飲めていることが多いです。1日に紙なら5枚以上おむつがびっしょり濡れていて、色が薄く臭いも強くないことが目安になります。飲んだ後にまだ欲しそうにしている場合は足りていないかもしれません。授乳の回数や間隔は個人差があり、1日8回から12回以上あげて構いません。間隔は3時間待った方がよいかと聞かれることもありますが、10分後に欲しがったとしても授乳しても構いません。授乳が足りているか、気になる場合は助産師さんやかかりつけの小児科医に相談をしましょう。

授乳のタイミングは?

 みなさんはいつごろ授乳をしていますか?泣いたときは遅いサインと言われ、泣いている時にあげようとするとうまく飲んでくれない場合もあります。体を
 もぞもぞと動かす・手や足を握りしめる・手を口や顔にもっていく・おっぱいをすうように口を動かすなどが空腹のサインと言われています。このことを1989年、WHO(世界保健機関)とユニセフから発表された「母乳育児成功のための10か条」に謳われています。この10か条の中には、赤ちゃんが欲しがるときに欲しがるだけ授乳をしましょう・母乳で育てている赤ちゃんには人工乳首やおしゃぶりを与えないようにしましょうなどが書かれています。
 最後に、私も会員になっているNPO法人日本ラクテーション・コンサルタント協会は母乳育児支援を行なう団体で産科医・助産師・小児科医などで構成され、学習会をしたりしています。この協会は科学的根拠に基づいた情報を発信していることが特徴的です。

参考文献

NPO法人日本ラクテーション・コンサルタント協会ホームページ
http://jalc-net.jp/
ドクターKIRIKOのおっぱい育て ニライ社 桶谷桐子

 

暖かくなってきて、ようやく春がやってきました。皆さんの新生活は順調ですか?ペースがつかめないかもしれませんが、ゆっくり調整していきましょう。先月は「保育園落ちた日本死ね!」が大きな話題になり、反響は大きく安倍総理大臣の耳まで届きました。県内では都会までの深刻さはありませんが、希望する園に入れなかったり、年齢によっては断られるケースも耳にします。保育園待機児童の解決策は保育園(もしくは園児の受け入れ人数)を増やすしかありません。共働きが当たり前の時代、子どもの数だけ保育園を用意してもらえれば問題がなくなります。小学校に入るときは枠があり全員入学できます。学校と同じように保育園入園を希望する人には全員入れるようにしてもらいたいです。そうすれば、働きたいと希望する母が働くことができ税金を払うこともできます。園児の受け入れ人数をもっともっと増やすことが今、緊急に求められています。合わせて深刻な保育士不足の解消のためにも、保育士の待遇改善が急務となっています。保育士がいなければ園児の受け入れは増やすことができません。保育士という仕事の重要性を国全体で改めて認識すべき時期にきていると感じています。

 今月は昨秋、母乳研究の第一人者である昭和大学小児科水野克己先生の講演を聞いてきましたのでみなさんにお伝えします。

 

母乳バンクって?

 日本の新生児死亡率は世界で一番低く、トップレベルの医療体制が整備されています。早産のお子さんが生まれてすぐに母乳を飲んでもらうことで病気の予防ができます。母乳には粉ミルクに入っていない免疫(病気を守る)が入っていて、特に初めての母乳(初乳)には栄養や免疫がたっぷり入っています。その母乳をどんなお子さんにも恩恵が受けられるように届けるためにどうしたらよいのか欧米などの取り組みを参考に考えられてきました。

特に早産児は体重が少ないため、正常児と比べて予備能力がありません。出生後間もない時期に早産児がかかると恐い病気に「壊死性腸炎」という病気があります。これは腸への血液の流れが障害され、細菌感染をおこし腸が壊死する病気です。この病気を予防するために出生後早期に母乳を与えるとよいことがわかっています。壊死性腸炎の予防だけでなく、点滴期間の減少・長期的には生活習慣病の減少・認定能力の上昇にも寄与します。対象者は早産児以外に腹部手術後、ミルクアレルギーなどにも有用です。母親が病気で母乳を与えられなかったり、充分に母乳がでなかったりする時、善意で提供された母乳を殺菌処理して保存した後、必要とする赤ちゃんに提供するシステムが「母乳バンク」です。

 

母乳バンクのしくみ

 日本の母乳バンクは昭和大学江東豊洲病院で行われています。提供者はまず担当医から母乳バンクの説明を受けます。輸血歴がない・ピアスをしていない・たばこを使用していない等を確認し、血液検査を受け感染症がないことを確かめます。母乳提供で金銭をもらうと、人工乳を入れたり水で薄めたりすることが考慮されるため、提供者はボランティアで行なわれています。提供された母乳は院内で低温殺菌処理後、冷凍保存し細菌検査が行われます。このようなしくみで提供された母乳は感染や細菌から守られています。

 

インターネットでの母乳売買に注意!

 昨夏、インターネットで母乳を売買しているという報道がありました。第三者の母乳は持病や保管方法などがわからず、母乳だけではない粉ミルクや化学物質などが混入がみられたりしました。また細菌の混入から繁殖の可能性、さらにHIV(ヒト免疫不全ウイルス)、HTLV-1(ヒトT細胞白血病ウイルス1型)のウイルスが入り込むと病気が発症する可能性もあります。絶対に購入しないでください。

 

全国に広げよう!

アメリカでは100年前に母乳バンクは誕生しており、欧米を中心に世界各地で運用されています。世界の周産期医療において母乳の大切さが強調され母乳バンクの必要性が高まっています。日本ではようやく3年前から始まりましたが、現在、1か所のみの実施にすぎません。厚生労働省研究班が2年前、全国の新生児集中治療室の医師に行った調査によると、7割以上で母乳バンクが必要であると回答しています。オーストラリアでは最近母乳バンクが誕生し壊死性腸炎の発症が減っているデーターが出ています。皆さんに知っていただくことで、全国に普及することを願っています。

 

あけましておめでとうございます。今年も子どもに関する医療情報を読者の皆さんに提供できたらと思っています。これからもよろしくお願いします。  私の今年の目標は、仕事においては子どもたちのために最新の医療を提供し、学会・講演会などで勉強に励むこと、プライベートではまだ1歳の娘と生涯の伴侶である妻のために長生きする上で必要な健康づくりを心がけたいと思います。健康づくりとして、すぐにできるランニングをしています。県内のマラソン大会には積極的に出場していきたいと思います。見かけたらぜひ声をかけてください。

今月は診療でよく質問される「授乳中におくすりを飲んでいいの?」についてお話します。

 

「薬を飲んだら授乳できない」はウソ!

薬の説明書である「添付文書」と言われているものがあります。多くの薬の添

付文書に「母乳中への移行が報告されており、授乳中の婦人への投与は避けること」とあり、医療関係者でもそのままの記載を信じている人も多いのが現状です。添付文書を作成する上で、臨床治験をしながら薬が安全かを検討するのですが、母乳中の濃度までは調べることはなく、一律に「授乳中は避ける」と書かれてしまいます。

ママが薬を飲むと消化管から吸収され、乳腺まで運ばれ血液を介して母乳中に薬が到達します。さらにお子さんが母乳を飲んで消化管で吸収されます。薬を飲むと母乳には移行することは事実ですが、その量は非常に少ないと推測されます。実際計測すると健康上問題がないぐらいの濃度にまで薄められています。現行の添付文書だけを鵜呑みにすると、授乳中のママは一切薬を飲めないか、授乳をやめることになってしまい子どもにもママにも切ない選択をせざるを得ません。添付文書の記載は科学的根拠に基づいた記載に修正していただきたいものです。

 

多くの薬は授乳OKです

 国立成育医療研究センターのホームページ(http://www.ncchd.go.jp/kusuri/lactation/)上で科学的な情報をもとに

評価を行い授乳に安全かどうか代表的な薬が載っています。授乳中に適さない

と判断される薬は放射性ヨウ素・コカイン(麻薬)・アンカロン(抗不整脈薬)

が記載されています。安全に使用できる薬は、抗菌薬(抗生剤)・抗ウイルス剤・

解熱鎮痛薬・喘息治療薬など多くの薬が挙げられています。さらに薬で困って

いるママに電話相談のサービスを行っています。

 「妊娠と授乳」という専門書によると、解熱鎮痛薬ではアスピリン以外の薬、

抗ウイルス剤であるタミフル・リレンザは安全であると書かれています。向精神薬の中には安全である薬もあるため、安易に授乳できないと決めつける必要はありません。ママの気持ちに寄り添いながら慎重に対応することが大切です。他にも多くの薬が安全であります。

発売してまだ時間がたっていない新薬は、データーがでていないこともあるので控えた方が得策です。すべての薬について述べられませんが、かぜなどで子どもに出される薬は安全であると考えられます。

そもそも、かぜの多くは原因がウイルスであるため、ウイルスに対して効果が

ない抗菌薬は必要がありません。薬が本当に必要かどうかも考える必要があります。市販薬や漢方はいくつかの成分が混ぜており、データーがないことが多く、病院で出される薬で対応することをお勧めします。

 

安易に授乳を中止しないで

 母乳は人工乳にはない免疫が入っているので子どもの病気を守ることができます。授乳を中止することで乳腺炎のトラブルが起きやすくなったり、ママ自身が後悔したり自分を責めることになるかもしれません。授乳を続けることは子宮収縮効果があり出産後の出血防止や出産後の体重減少にも効果があり、その上で乳がんのリスクが低下するという報告もありママ自身の体にもいいことがわかっています。経済的にも助かりますよね。

 

読者のパパから質問

 先月、知り合いのパパから質問を受けました。周囲の方から1歳すぎたらおっぱいをやめた方がいいと言われ、試みたところ、夜のねかしつけで泣きすぎて夫婦で困り果てたそうです。世界保健機関(WHO)では2歳かそれ以上まで母ば飲ませていて構いません。イクメンパパさん質問ありがとうございます。

 

参考文献

国立成育医療研究センター http://www.ncchd.go.jp/kusuri/lactation/

妊娠と授乳 南山堂


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