小児科医から最新の医療情報と県内の子どもにまつわる情報をお伝えしております。
この内容は、県内子育て情報誌「ちびっこぷれす」の「午後10時、クリニックにて…〜おほしさまの先生からの子育て応援”談”!〜」に掲載されています。
小児科医から最新の医療情報と県内の子どもにまつわる情報をお伝えしております。
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新年あけましておめでとうございます。
皆さんは2025年をどんな年にしたいですか?私自身は患者さんのために診療に励むこと・病児保育・医療的ケア児のデイサービス・訪問診療にも変わらず関わっていきたいと思っています。プライベートでは子どもが3人巣立ち、第4子が県外で大学生をしていて経済的な負担があるので、留年しないことを祈っています。第5子は今春中学生になり、新たな生活が始まります。子育てが早く終わって欲しいと思う反面、子どもが巣立っていく心の寂しさを感じています。 残された私と妻で相手をリスペクトしながら生きていきたいと思っています。
2024年11月末、子宮頸がんの原因となるヒトパピローマウイルス(HPV)の感染を防ぐワクチン(HPVワクチン)について新たな救済措置が発表されました。接種機会を逃した女性(1997~2007年度生まれ)を対象にした救済措置「キャッチアップ接種」の期間を2025年3月末までに1回でも接種した方は、2026年3月まで2~3回目の接種を公費で認められるようになりました。対象者でまだ未接種の方がいましたら、母親の思いではなく、ご本人自身で接種するかの情報収集をして判断してほしいと願っています。なぜなら、ご本人が将来、かかってしまうかもしれない病気だからです。
今月は「チック症」についてお話します。チック症は5~10人の1人が経験、「くせ」の一つと見逃されがちな面がある一方で、長期間にわたって激しい症状が続き、生活に支障をきたすこともあります。2024年2月発刊された「小児チック症診療ガイドライン」を基に皆さんにお伝えします。
チックは突発的・急速・反復性・非律動性の運動または発声と定義され、発達障害者支援法の対象となります。原因はわかっておらず、育て方やストレスのみが原因で起こるわけではありません。生まれつきチックが出やすい素因があり、そこにストレスの影響が加わり、遺伝と環境の相互作用で生じると考えられています。
チックには運動チックと音声チックがあり、持続が短く明らかに無意味な単純チックと持続がやや長く意味があり目的性があるようにみえる複雑チックに分けられます。単純運動チックは目をぱちぱちする・ぎゅっと目をつぶる・首を振る・肩を上げる・手を振る・顔をしかめる・口を開けるなどがあり、複雑運動チックは手でたたく・ジャンプ・触る・手の臭いをかぐなどがあります。そして、単純音声チックは喉をならす・ぶっと音を出す・カン高い音・鼻をすする・咳払いなど、複雑音声チックは他人や自分の言葉や汚い言葉を繰り返すなどの症状があります。
トゥレット症は1000人のうち3~8人にみられ、多彩な運動チックと1つ以上の音声チックを認め、1年以上持続する場合を言います。典型例はまばたきなどの単純運動チックが4~6歳で、1~2年後に音声チックが発症し、年齢が上がるにつれて複雑なチックが増えていきます。10~12歳に症状のピークがあり、その後減弱していきます。但し、個人差が大きいこともわかっています。
症状がみられた場合は、自己判断せず、医療機関に相談をお勧めします。咳の症状の場合、風邪などと鑑別しづらい場合もあります。事前に動画を撮ってみせていただけると診断しやすいです。
症状は不安や緊張が強くなる・強い緊張が解けた・楽しくて興奮した時に増加しやすく、一定の緊張度で安定している・集中して作業している時に減少する傾向があります。
症状が本人の意思とは関係なく出てしまうので「その癖をやめなさい」・「短時間で止められるのだから我慢できるでしょ」などと本人に言うと、かえって症状を悪化させる可能性があります。また、ストレスや不安などがあると悪化することがあるため、ご家族や園・学校の関係者は本人が過ごしやすい環境にあるのか、学習面や友人関係で悩んでいないかについて把握して、本人が安心できるように配慮してもらえるとありがたいです。また、10歳頃に症状が強くなりますが、年齢が上がるにつれて治まっていくことも知っていただくと安心できます。私の経験では、親が子どもに対する接し方を優しく気にする・本人が好きではない習い事を休む・担任の先生に伝え、係などを減らすなどの対応で改善した例があります。但し、症状が激しく、体の痛みや疲労、食事や勉強などの日常生活に支障をきたす場合や、友達から注目されたり、からかわれたり、気にして外に出られないなど精神面での悪影響が考えられる場合は薬物療法を検討してもいいかもしれません。症状は千差万別です。お子さんの気持ちに寄り添って対応してもらえるとありがたいです。
日本小児神経学会編:小児チック症診療ガイドライン. 診断と治療社.
先月まで暖かい日が続いたことも影響し、あっという間に冬に移行したため月日の経つのが早く感じられます。今月はクリスマス・仕事納めと慌ただしい月になりますね。お子さんはサンタさんからのプレゼントを楽しみにしているでしょうね。当日開けた時の喜びは親子とも一生忘れられない思い出となります。
先月初め、家族で長崎へ旅行に行ってきました。夜、ロープウェイに乗って世界新三大夜景を見てきましたが、山梨県人だからなのか甲府盆地の夜景の方がずっときれいに感じました。もう一つ、訪れたのが「長崎原爆資料館」です。
被爆の惨状などを平和案内人の方から説明していただきました。説明の後、なぜ平和案内人をしているのかと聞いたところ、「1人でも多くの方に、原爆の惨状を知ってもらい、世界が平和になることを願って、ボランティア活動をしています。」と教えてもらいました。改めて平和について考える機会を得ました。
先月は抗生剤の適正使用について話をさせていただきました。思っていた以上の反響があり、好意的な反応がみられました。風邪(感冒)の原因の多くはウイルスで、抗生剤が効かないことを理解していただけたと思います。
今月は子どもたちを中心に流行している「マイコプラズマ感染症」についてお伝えします。ちなみに、マイコプラズマはウイルスでなく細菌であるため、抗生剤が効きますので、マイコプラズマのことを知って上手に対処できることを期待します。
マイコプラズマ感染症はマイコプラズマという細菌による感染症で、様々な症状を起こします。マイコプラズマにかかると、肺炎になりやすく、発熱・倦怠感・頭痛・咽頭痛などの症状が出始めて数日後に咳がでてきます。咳は痰を伴うことが少ない乾いた咳が特徴で、解熱後も長く持続する「長引く頑固な咳」です。
今年5月からマイコプラズマにかかる患者数が増加、2016年以来8年ぶりの流行となって、現在も流行しています。新型コロナウイルス感染症の流行で、多くの感染症にかからなくなり、マイコプラズマも同様に、免疫を持たない成人や小児が多くなっていたのが今回のマイコプラズマの流行につながっています。
診断はコロナとインフルエンザのような迅速検査がありますが、感度が低いため、積極的に検査するのはお勧めしません。つまり、検査して陰性でもマイコプラズマにかかっていないと否定できないのです。他の検査方法として、血液検査で抗体価をチェックする方法がありますが、採血をすることと結果に時間がかかることで普及していません。実際の診療では流行状況と症状から総合的に判断していくことが多いと思います。
マイコプラズマは細菌であるため、抗生剤が効きます。抗生剤の第一選択薬はマクロライド系の抗生剤が推奨されます。マクロライド系の抗生剤が無効な場合、ニューキノロン系(小児はトスフロキサシンのみ)もしくはテトラサイクリン系(8歳未満は医師が必要と判断した場合のみ可)の抗生剤に変更します。 今ある抗生剤を上手に使用することで耐性菌の出現が減らすことができ、どちら抗生剤も効かない耐性菌が現れないようにするべきです。大事なお子さんにどんな抗生剤が処方されているかを確認することも大切です。
感染予防は新型コロナウイルス感染症やインフルエンザと同様に、せきやくしゃみの飛散から感染が広がる『飛沫感染』のため、手洗い・うがいなど今まで通りの感染対策をしてください。せきがでている場合はマスク着用を心がけてください。潜伏期間が2~3週間と長く、家族間では忘れたころに症状がでてくることが多いです。今現在、マイコプラズマの流行期であることを知って、園や学校の先生方は、咳嗽が続いている場合は保護者に医療機関受診を積極的に勧めてください。
今冬はマイコプラズマ・インフルエンザ・新型コロナウイルス感染症の3つが流行するのではないかと危惧されています。各々の病気を知ることで、上手に医療機関受診し、お子さんの体を守っていただけるとありがたいです。
2025年もこのコラムを通じて、少しでも皆さんの健康に役立ててもらえたらと願っています。どうぞよろしくお願い致します。
マイコプラズマ肺炎流行に対する日本小児科学会からの注意喚起
https://www.jpeds.or.jp/uploads/files/20241028_maiko.pdf
マイコプラズマ肺炎増加に関する学会からの提言について(周知)
秋本番となりました。
2024年のノーベル平和賞は日本原水爆被害者団体協議会(日本被団協)が受賞しました。日本被団協は被爆者の立場から核兵器廃絶を訴えてきました。核兵器のない世界を実現するための努力と核兵器が二度と使用されてはならないことを証言によって示してきたことが授賞理由となっています。1945年8月以降、核兵器が戦争で使われていませんが、現在、ウクライナへの軍事侵攻に踏み切ったロシアが核兵器使用をちらつかせています。私たちがこの現実を受け止め、核廃絶への道を考える必要があります。
10月から県内の病児保育利用料について、県と市町村より1人1日千円の助成が始まりました。山梨県は病児保育広域化利用と利用料公費助成がなされており、全国でも先進的な取り組みと評価されています。県と市町村の取組に対して感謝申し上げます。
ところで、皆さんは熱などの症状があり、医療機関から抗生剤(抗生物質、抗菌薬)を処方されたことがあると思います。抗生剤は現代の医療において重要な役割を果たしてきました。その一方で抗生剤の副作用、耐性菌とそれに伴う感染症の増加が国際社会で大きな課題の一つに挙げられています。
今月は抗生剤について皆さんにお伝えします。
抗生剤は細菌に効くお薬で、ウイルスやカビなどには効きません。つまり、ウイルスが原因である風邪には抗生剤は効かないのです。細菌に抗生剤を使用すると、細菌は生き残るために抵抗性を身につけて耐性菌が出現します。
ペニシリン(抗生剤)は1928年に発見されました。肺炎や敗血症などの感染症を治すことができ、多くの人の命が救われ、第2次世界大戦ではペニシリンのお陰で多くの戦傷兵が助かりました。その後、耐性菌が出現し、新規抗生剤を開発することを繰り返し現在に至っています。1980年代以降、新たな抗生剤の開発が減少しており、現在のように抗生剤の使用を続けていると、2050年には全世界で年間1,000万人が薬剤耐性菌により死亡することが推定されています。抗生剤を適正に使用しなければ、将来的に感染症を治療する際に有効な抗菌薬が存在しなくなることが懸念されています。
諸外国と比較すると日本では抗菌薬の使用量が多いことが指摘されています。米国では処方された抗生剤の少なくとも30%程度は不適正使用であることが示されています。日本においても、65歳以下の患者の下痢症で過剰に抗菌薬が処方され、小児の肺炎でガイドラインを遵守して抗菌薬を処方している施設が4 分の1しかないという現状があります。
抗微生物薬適正使用の手引き(第三版)では、小児の感冒・急性鼻副鼻腔炎・急性気管支炎・急性下痢症(胃腸炎)に対しては、抗菌薬投与を行わないことを推奨しています。但し、症状が悪化し診断を再検討することもありますので治るまで経過をみておく必要はあります。
抗生剤が必要となるのは、溶連菌感染症・マイコプラズマ感染症・百日咳・クラミジア・ニューモニエなどです。第一選択薬として、溶連菌感染症はアモキシシリン(ペニシリン系の抗生剤)、マイコプラズマ感染症、百日咳、クラミジア・ニューモニエはマクロライド系抗生物質を推奨しています。
急性中耳炎は、抗菌薬処方がなくても、4分の3以上が1週間で自然治癒し、2 歳以上は3日で70%改善し、2歳未満の場合は10日で約半数が治癒することも知られ、全例に抗菌薬が必要ではないと言われています。米国小児科学会ガイドラインでは抗菌薬投与を①耳漏がある場合 ②重症(48時間以上持続する耳痛,39℃以上の発熱)の場合 ③6か月~2歳で両側の場合に抗菌薬投与を行う と推奨し、急性中耳炎の第一選択薬はアモキシシリンです。
抗菌薬が効かないのにウイルス感染で抗菌薬を飲むと、抗生剤は異物のためアレルギー反応を起したり、肝臓や腎臓を傷めたりすることがあります。口から腸の中や皮膚には無害な細菌や有益な細菌(いわゆる善玉菌)が数多く住み着いています(常在菌)。抗生剤は常在菌を殺してしまい、下痢や腹痛を起こすことがあり、耐性菌が多く住み着きます。このような状態で、細菌感染症にかかった場合、本来効くはずの抗生剤が効かない状況に陥りやすくなります。
痰の色だけで細菌性であるかの判断はできないとも指摘されています。
私自身も抗生剤の適正使用を心がけ、保護者にご説明しながら診療をしています。抗生剤のことを知って、上手に使用することをお勧めします。
抗微生物薬適正使用の手引き第三版 厚生労働省
今月は梅雨が明けると夏本番です。熱中症に気をつけながら、夏を楽しみましょう。先月、恥ずかしながら夫婦げんかがありました。いつもなら互いに不機嫌になり、時間が解決してくれていたのですが、初めて、その解決に成人した子どもたちが関わってくれました。子どもが両者の言い分を聞き、仲立ちをしてくれました。子どもが成人になるとそれで終わりではなく、親を助けて(諭して)くれることがあるのだと子どもの存在の有難みに感謝しました。読者の多くの方は小さな子どもたちの子育てをして毎日疲れ切っていることでしょう。しかし、子どもが成人になったときに、思わぬところでご褒美をもらうことができます。
皆さんもこれからきっと経験できると思います。
先月、国民生活センターから「アームリング付き浮き具」を着けて子どもが溺水した事故があったことが報告されました。2023年8月、3歳男子が「アームリング付き浮き具」を着けて、屋外のレジャープールで遊んでいて、保護者がわずかに目を離した間に溺れ、浮いているところを発見されたそうです。一時は心停止と診断され、5日間入院しました。着用方法が逆になっていると溺水しやすいことを注意喚起しています。また、アームリング付き浮き具はライフジャケットとは異なり、命を守るためのものではないことを理解すること、さらに水遊びの際は必ず保護者も子どもと一緒に水に入り、万が一の場合に備え、すぐに手を差し伸べられるように寄り添うことも大事です。毎年海・川などでの溺水事故が多く発生しています。大人も子どもも水辺での遊びではライフジャケットを着用してください。
昨年5月から新型コロナウイルスの感染症法上の位置づけが5類になり、マスク着用は個人の判断が基本となりました。5類施行後、1年が経ちましたが、世間ではコロナ禍前よりもマスクを着けている方が多い印象です。大人はご自身の判断でよいと思いますが、子どもたちだけで判断させることは到底できません。今月は子どものマスク着用について考えてみたいと思います。
国立成育医療研究センターが2023年ゴールデンウイーク中、小6から高2までの学生749名からマスクの着用について質問をしました。その結果、「室内の近い距離で人と接する可能性があるとき」は約9割の子どもが「マスクをつけている」と回答、「マスクをつけたい」と思った理由は「病気の感染対策」「安心するから」「みんながマスクをしているから」などでした。マスクを外したい理由は「不快」「会話しにくい」「集中できない」などでした。
コロナ過ではマスクをつけなさいと子どもたちに強いてきました。2023年5月から個人の判断ということになりましたが、急に子どもたちに判断をさせるのはなかなか難しく、戸惑っている子どもも多いのではないでしょうか。大人だって同じだと思います。調査結果の「みんながマスクをしているから」という思いは、本当ははずしたいという気持ちが入っていることを大人は知っておく必要があります。
私が会員でもある「ファザーリング・ジャパン」(父親の子育て支援などに取り組むNPO法人)の会員間によるメーリングリストで木舟周作さんという会員からのメールに目が留まりました。ある中学校で半数以上が炎天下でマスクをしながら徒競走などをしている現状を目の当りにし、体育や運動会でマスク着用をしないように、みんなの笑顔が見える社会・素顔の日本を取り戻すために2024年4月に「素顔ジャパンプロジェクト」を立ち上げました。
このプロジェクトでは、『小学高学年から中高高校生の多くがマスクをはずせずにいる』『特に夏の炎天下、マスク着用で運動をさせることは虐待であると言っても過言ではない』『顔を見せるのが恥ずかしくマスクが手放せなくなってしまっているお子さんへ寄り添った対応をしてほしい』『不登校や自殺が増えているが、マスクの影響があるのではないかという懸念』などを訴えています。
最後に、5類以降、私はみんなにマスクを外してもらいため、診察以外は率先して外して来ました。2023年5月頃はマスクをつけないでいる方が少数のため、何か言われたらどうしょうとドキドキしていましたが、今は外している人が半数以上になってきているので安心しています。うちの娘(小6)のクラスは女子がほとんどマスクを着用しているようです。女子は様々な理由で外せないようです。お子さん自身が感染に心配して着用する場合は無理に外すように強いる必要はありませんが、大人はマスクを外したいと思っている子どもたちが外せるように考えてもらいたいです。成長期である子どもたちは、顔の表情を読んで学んでいることを忘れないでください。
国民生活センター アームリング付き浮き具による子どもの溺水が発生!
https://www.kokusen.go.jp/news/data/n-20240522_1.html
東京くらしWEB 子供の水辺の遊びではライフジャケットを着用させましょう https://www.shouhiseikatu.metro.tokyo.lg.jp/anzen/test/lifejacket.html
素顔ジャパンプロジェクト https://sugao-japan.com/
例年のように猛暑が続く暑い夏、みなさんいかがお過ごしですか?水分補給をこまめに行い、クーラーを活用したり、シャワーを浴びたりしながら熱中症に気をつけてください。
先日、乳がんと闘っていた小林真央さんが亡くなりました。幼いお子さんを残してどんなに無念だったかと想像します。悲しく残念でたまりません。真央さんのブログから前向きに生きる姿が多くの方に伝わりました。また一日一日を大切し前向きに生きていくことを教えられました。ご冥福をお祈りします。
今月は視点を広げて医療と上手に関わりながら子育てをしていくには・・という話をしたいと思います。昨今はブログなどを含めたネットが普及し、情報が氾濫しています。子育ての情報のみならず、医療情報も多く、どの情報を信じればよいか迷う時もあります。
私が小児科医になったばかりの20年前は、喘息の治療薬があまりなかったため、夜発作を起こした子どもの受診が多く、救急外来は忙しい日々でした。現在は治療法が進歩し、抗ロイコトリエン薬や吸入ステロイドの誕生で発作を起こす子どもたちが明らかに減ってきています。喘息の治療をみても、昔より格段に進歩しています。薬を上手に使うことにより発作で苦しまずに済むお子さんが多くなってきています。喘息のお子さんは気道炎症が24時間起こっており、発作がなくても、抗炎症薬を使用し気道炎症を抑えることで発作を抑えることが大切です。上手に薬を使うと生活の質が高まります。
20数年前、ステロイド軟膏の副作用に関する誤ったテレビ報道をきっかけに使用を控える方が増加し、アトピー性皮膚炎の炎症が悪化し、真っ赤な顔になり受診する方が多く見られました。その後、その誤解を正すために多大な時間を要することになりました。その頃は私たち医師の話より、メディアや民間療法の影響が強く、ステロイド軟膏の使用に関して躊躇している方が多い印象をうけました。
2000年に日本皮膚科学会からアトピー性皮膚炎ガイドラインが誕生し、普及が進むことで、医師・患者の両者の共通理解が深まりました。そのおかげでステロイド軟膏を使用しない方は現在、ほとんどみられなくなっています。ステロイド軟膏の副作用が出にくい免疫抑制剤の軟膏も登場し、以前よりアトピー性皮膚炎の治療も進歩しています。
最近いくつもの予防接種が登場し、多くの恩恵が得られています。特にヒブワクチン、肺炎球菌ワクチンが始まり、髄膜炎にかかるお子さんが激減しています。うちのクリニックでもヒブワクチンが始まる前は髄膜炎にかかるお子さんが年に数人はいましたが、現在はほとんどいません。またロタウイルスワクチンがない頃は、多くのお子さんが点滴や入院をしていたのですが、開始されてからは点滴治療も入院も激減しています。予防接種は発熱や接種部位が腫れることはありますが、重い副反応はまれとなっています。現在使われているワクチンは長い歴史があり、世界中のお子さんに使用されてきて安全性が確認されています。
予防接種をした後に高熱を出したり、脳炎を起こし報道される場合があります。接種後に起こすと直接的な原因と思われがちですが、その因果関係を調べることは簡単にいかないことも多いのが現状です。私が予防接種を勧めるときには予防接種のメリットとデメリットのバランスを考えて、メリットがデメリットを上回るようなら接種した方がよいと話をしています。予防接種の必要性についてはネット情報だけではなかなか理解できません。大切な自分の子どものワクチンの必要性について親としていろいろと心配するのは当然のことです。必要性があるかはかかりつけ医に相談をして、納得のいく説明を聞き、子どものために決定することが必要です。私たち小児科医は科学的なデーターを収集し、国の方針や日本小児科学会の提言を考慮し判断しています。
最後に喘息やアトピー性皮膚炎で上手に薬を使用することで、症状が軽くなっていること、予防接種をした恩恵でいろんな病気にかからないで済む時代になっていることを痛感します。私が医師になったばかりの頃と比較すると小児医療の進歩は早く、今の子どもたちは本当に幸せだと感じます。皆さんもご存知の通り、子育ては一人ではできません。医療との付き合い方も同様で、かかりつけ医に相談しながら、現在の最新の医療を上手に取り入れていただきたいです。そして、その情報を家族で共有しながら子どものために良い選択をしていってほしいと願っています。